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〜龍と刀〜
十六夜、激怒
弾け飛ぶガラスの中、垣間見えたのは赤い流れだ。
それは土足のまま部屋を踏み荒らし、陽の眉間に武器を突き付けた。時間にして約五秒。身構える事すらままならない。

「さあ……死にたいか、それとも今すぐ死ぬか!どっちだクソガキ!」

陽の目の前には、無茶苦茶な登場を果たした十六夜の姿。木刀を握る拳は燃え盛る炎が、風に流れた前髪の内側、額には青筋が浮かぶ。単純に、キレていた。

「月華を……月華を巻き込んだ落とし前、つけてもらうぞ!しっかり灰に−−」

十六夜の言葉が急に止まり、陽の格好に視線を。次に後ろに隠れるようにしている月華−−月詠−−を見て、更に炎をたぎらせた。

「貴様、月華に何をしようとしていた……?返答次第では消滅させる」

十六夜を中心に火花が舞い始める。

「待てよ!誤解だ誤解!これはだな、怪我した俺に月詠が手当てを……」

陽は十六夜の瞳に映る殺意を見逃さなかった。だから、身振りを含めて必死に弁解を図る。弁解も何も、本当の事を喋っているのだが。

「ん……貴様、今何と言った?月詠、と聞こえたぞ」

「あ、ああ。月詠って言ったが……」

殺意の籠もった眼差しは陽から離れ、月詠へと移された。観察するような目の動き。自分の娘を見る目では無く、対象物を見定めるような……。

「……貴様、娘に何をした?」

今まで聞いた事の無いような、低く冷たい声。それに含まれているのは、やはり熱い怒りだ。

「ワタシは何もしていない。ただ力を貸しただけ……時に、ワタシの事に覚えは無いか?」

「誰が貴様なぞ……まさか貴様は、あの時の魔族か」

十六夜の脳裏によぎったのは、約十年前の出来事。十六夜と月華だけでなく、陽と月華にも重大な出来事だった。

「そう。覚えていたみたいだな……」

月詠の表情はどこかほっとしたような物になったが、対する十六夜は怒りを増すばかりだ。湧き上がる記憶、その時の事が今でも鮮明に、脳内を駆け回る。

「あの時は仕留めそこなったが……今度は逃げ切れないぜ……存在ごと、焼き払ってやる!」

「まあ待て。この話を聞いてみれば、気も変わるやもしれん」

やんわりと静止した月詠。十六夜も、姿が月華のために容易には手を出さなかった。
二人の会話が続く中、置き去りにされている陽。白銀はどうやら知っているらしく、完全に覚えていないのは陽だけとなってしまった。

「ワタシがこの娘の体に封じられたのは知っているな?」

十六夜は無言で頷き、先を促す。パキリ、と壊れたガラスが音を鳴らした。

「それ以来、この娘が危険に晒されたら真っ先に駆け付けたのは」

「俺様だな。月華の身を必ず、何があっても守ると誓ったのはあの日。当然、琉奈もだ」

「……そして、誰より早く危険を察知出来るようになった。違うか?」

やはり陽には何を話しているのか分からない。とりあえず、邪魔にならないように少し距離を取る。

「そうだ。だが、それと貴様が月華の体を支配しているのと何の関係がある!?」

痺れを切らした十六夜が木刀を床に打ちつけた。細かくなった破片は十六夜の放つ火花によって打ち消える。

「気が短いな。つまり、ワタシが危険を伝えていたという事。そして、少なくとも僅かな危険から回避してやったという事だ」


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あきゅろす。
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