〜龍と刀〜
神族の力
*****
アスラが飛び去ったその後。
残されたのは陽と白銀、月華の体を乗っ取っている月詠。そして、裂けた衣服−−シルフとディーネの物−−だ。
「ボロボロだな、少年?」
壁にもたれかかり呼吸を整えていた陽だが、思いの外、アスラによる一撃が強かった。骨は確実に折れているだろう。
「月詠、とか言ったか……?月華は大丈夫なんだろうな……」
「この状況下で他人の心配か。いや、人間はそういう物だったと記憶している」
そう言って月詠は陽の目の前に屈み、一番痛むであろう胸に触れる。
「ぐっ……」
「砕けている部位があるのか。丁度良い。治療も兼ねて場所を変えよう」
自らの腕輪を輝かせ、一言。
「『新月』」
虚空にぽっかりと開いた穴。
月詠には怪我人をいたわろうという気持ちが無いのか、右手に白銀、左手で陽の襟を掴んで引きずり込もうとしていた。
しかし陽も抵抗する気力が無く、大人しく連行される。
*****
「到着だ」
ほんの数秒引きずるだけで月詠の目的地に着いたみたいだ。
そこは見慣れた部屋、というより陽の部屋だった。
「……空間移動か」
「そうだ。神族の名に恥じぬ力であろう?さて、それでは元神族の凄さを思い知ってもらうとしよう」
白銀の問いに素っ気なく答えたかと思うと、陽のシャツをボタンを無視して破き、真っ赤になっている胸に手を当てる。
「まずは止血、それから骨の再構築」
淡く光る手のひら。そこに展開されるのは不可解な紋様が刻まれた魔法陣。
「ほう……回復までこなすのか」
感心する白銀。陽も見る見るうちに引いていく痛みに驚きを隠せない。
「この程度なら、朝飯前だ。少年、他にどこか傷のある場所はあるか?」
どうやら調子に乗っているらしく、ペタペタと体中に手を回す。姿自体は月華のため、妙に恥ずかしい。
「もう良いから!」
「そうか……それは残念だな。それで、ワタシの凄さは?ちゃんと見たか?」
しゅんとしたのは一瞬だ。すぐに切り替えて詰め寄ってくる。これでは会話もままならない。
「見た。だからとりあえず落ち着いてくれないか……」
肩を押さえて無理矢理座らせる。普段の月華とは全く違う。今更ながら、本当に別人なんだ、と実感する。
「じゃあいくつか質問だ。月華は大丈夫なんだな?」
白銀を定位置の部屋の隅へ置き、自身は少し距離を取って月詠に向き直った。
「当然だ。意識はまだ奥底で眠っているみたいだが……その内、目を覚ますだろう」
「それなら安心。次の質問だ。シルフとディーネは……どうした」
仲間になるはずだった姉妹。
アスラは言っていた。生きていない、と。だが、一方的な戦闘をしている間は確実に二人は横たわっていたのだ。
「彼女たちの魂を取り込み、別の意味で生かしている……と言えば良いのか?とにかく、仲間にはなっている」
複雑な心境。
遠い意味で取れば、二人の死は確定しているという事に繋がるし、月詠の言い分だと彼女の一部で生きているという事になるのだ。
流れる沈黙の中、月詠。
「ワタシからも一つ聞いておきたい事がある−−」
窓の外、飛来する物体にも気付かず続ける。
「−−ワタシの事を覚えているか?」
「え……?」
その言葉が投げかけられると同時、陽の部屋の窓ガラスが弾け飛んだ。
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