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〜龍と刀〜
文化祭一日目!W
コスプレをした女子がすれ違う度、井上のテンションは異常値へと達していく。
先程のスクール水着を始め、メイド服、チャイナ服、アニメキャラに扮した人など、正直この学校は大丈夫なんだろうかと心配になる。それくらいコスプレ率が高い。

「中学の文化祭の何万倍も楽しいな!ひゃっほーう!」

飛び跳ねたり回ったりと忙しい。しかし、こんなに騒いでも咎められないのはさすが文化祭か。井上のバカな行動すら普通と認識されてしまう。……それはそれで、あまり良くは思えない陽だった。

「ライブまではまだ時間あるな……」

ポケットにしまっておいたライブのチケットを見て時間を確認。どうやら紗姫たちの出番は後半らしい。

「あれ龍神、それ指定席チケットってヤツじゃ……?」

「なにぃ!?裏生徒会(非公式)ですら入手出来なかったレア物を持っているだとっ」

何の気なしに出したつもりだったが、うるさい井上のせいで陽の手元に注目が集まる。周りの男子が皆、目に殺気を宿らせているのがひしひしと伝わってきた。

「誰からもらったか答えよ!」

「命令口調が気に入らない」

「教えてくださいお願いします」

「変わり身速いね……」

さすがにこの視線の中、悠長に答えてやれる気がしないという事で、移動しながら説明しようと試みる。

「誰からもらったのさ?」

「紗姫だ」

「……何で?」

「知るか」

まだ背中に突き刺さる視線を感じるが、なるべく無視。場合によっては逃げる算段もある。

「まさか、前の下駄箱に入ってた手紙はそれの事か!?」

「手紙……?あぁそんなのあったな」

「お前そんなのって!やっぱりラヴレターだったんだなあ!」

「いや、違うから。それとそんなデカい声を出すな」

あの時の手紙は、とある死神からの果たし状だ。そんな嬉しい物とは全く存在が違う。真逆と言っても良いだろう。

「良いなぁ指定席……あれだよな?最前列の一番良い場所なんだろ?色々と見えるじゃねえか!羨ましいなちくしょー」

結局井上の目的はそんなのだった。一人で盛り上がって、一人で落ち込んでいる。

「あー、そうだ。剣道部に行こうぜ」

「急にどうしたの?」

「いや……賞金制度がどうなってるのか見て、酷いようなら俺が止める。もちろん井上も手伝わせるが」

再びコスプレ鑑賞に入った井上の頭を叩き、現実に引き戻す。叩かれた井上は何がどうなっているのか理解出来ず困惑中。説明したところで……とも思っているのは秘密である。

「剣道部の出し物、行くぞ」

「何するんだよー。そんな色気と無縁な場所なんて行きたくねえ」

ごもっともだ。陽だって別に好きで行く訳ではない。ただ、暴走していたらそれを止めるだけだ。

「上手く行けば、小遣い入るんだが……いらないんだったら仕方ないか」

中島に、話に乗ってくれ、とアイコンタクト。井上には悟らせない。

「そうだね。じゃあ僕らだけで頑張ろうか」

「おう。それじゃあな井上?いつまでも目の保養してると良いさ」

「ちょっ、ちょっと待ったぁ!その話、詳しく聞かせてもらおうかな?お金なんていらないけどね!おもしろそうだからだ!」

こうも単純な人間が居てくれて助かった。少し利用させてもらおう、と企みばかりが浮かんでいく。だが、これは皆のためであるし、悪い事ではないはずだ。きっと。

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