〜龍と刀〜
文化祭前日!T
−−数週間後。
文化祭を明日に控えた金曜日。それぞれのクラスの準備も佳境に入っていて、陽の嫌いな学校がすっかりお祭り気分。
「ホラ、間に合ったぞ」
陽に連れられた井上が、数個のダンボールを抱えて息を切らしている。陽は荷物なし。
「これ、全部一人で用意したの?」
「ああ。サイズも要望通り。一応何着か余計に買っておいた」
「さっすが龍神だね。井上なんかとは全く違うよ」
ぶっ倒れている井上は足蹴にされているが、陽は周りから大歓迎を受けている。だが、実費である事が最大の痛手。先日の戦闘での結界の札と、とある依頼料での出費もある。懐が寒くなっていくばかりだ。
「所詮は安物だ。貰っちゃってくれ」
「え、良いの!?」
「おう。クラスの費用をある程度使ったし、返品する訳にもいかないだろ」
キャーキャーと騒がしくダンボールに群がる面々に言ってやった。確かにクラスの費用も使ったが、ほぼ自前だとは言い出せない。何せ、そこそこ良い物を提供してもらったのだから。
「じゃあ、これで物は全部揃ったかな。みんなラストスパートだよ!」
歓声が上がる教室。あとは机などの配置や看板作り、飾り付けを終えれば全て出来上がり。我ながら良く協力したと思う。
「そうだよ。中学校の時は非協力過ぎたもんね」
「……覚えてないな」
「嘘はいけないよー?」
えいっと言う掛け声と共に突き出されたのは、月華の腕。その細い腕が向かった先は、先日怪我をした脇腹。
完治していない場所を突かれ、苦悶の表情でうずくまる。
「分かった、分かったからやめてくれ……本当に痛いんだから」
「あ、龍神が負けてる!今なら俺でも−−」
「それはない」
復活した井上を足払いで再び撃沈させ、ゆっくりと立ち上がった。
周りを見渡し、どうやら自分が手伝えそうな事はないようなので、どうしようかと思案していると、
「ん……?電話か」
ポケットから、無機質な機械音が鳴り響いた。
「あ、はい。どうも……今から?」
陽が敬語で話をしている時は、大抵が協会からの電話だ。内容は会議やらどうでも良い連絡事項に夏休み前のような依頼だったりする。今回は、会議のようだ。
「分かりました……場所を変えるので少々待ってください」
「また剣術の?最近多いよね」
「時期的に忙しいんだろうよ。とりあえず俺は屋上にでも行ってるから、用事があったら呼びに来てくれって他の奴にも伝えといてくれ」
「うん。任せて」
背中越しに手を振り、足早に教室を後にする。
教室を出ると、そこはもっと様変わりしていた。殺風景だった廊下は場違いな程に装飾が施され、窓には自作のイラストなのか店の宣伝が貼られている。
皆が皆張り切っている中を、陽は携帯電話片手に颯爽と駆け抜けていく。駆ける、と言うかただ早歩きをしているだけであるが。
屋上に続く階段には、立ち入り禁止の張り紙。一般の人がここに出入りしないようにという対策だろう。当然、陽はそれを無視。飛び越えて侵入した。
「ふぅ……廊下が長く感じたな……」
そう言って扉を開ける。
会議の始まりだ。
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