〜龍と刀〜
『一人』の『狐』T
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なかなか眠れない。枕元の携帯電話のディスプレイを見て時間を確認してみた。
あと二、三分で日付が変わるという時間帯だ。
体は疲れているのに眠れない理由は、無理矢理に貼られたり塗られたりした薬品の臭いや染みる傷口があるから。それと、もう一つ。
「……やっぱり、気になるよな」
紗姫の事だった。自分の過去すらほとんど語っていないのだが、他人の事になると好奇心や興味といったものが湧き出してくる。迷惑だとは思うが、気にしてしまうのも人としての嵯峨だ。抑えなければとも思ってはいるのだが……。
「ダメだ。聞かないと後悔しそうな……」
「どうしたこんな時間に?お前が寝ないと我も休めないではないか」
「俺のせいかよ。……まあ、ちょっと聞いてくれや」
白銀の前に座り、事情を説明した。とは言っても、異様な怒り方だったんだ、と話しただけ。かなり省いている。
「つまりは……過去を知りたい、と?」
「結論から言えばそうなんだけどさ。でも、俺だって話したくない事はあるし。紗姫に無理強いするのもアレだよな……って」
「しかも時間が時間だ。迷うより行ってみたらどうだ?案外、あっさりと解決出来るかもしれぬぞ?」
投げやりな口調の白銀。さすがに疲労を感じているのだろう。あれだけの戦いだったのだから当然である。
「そう、だな。んじゃあ、行って来る。白銀はゆ〜っくり休んでろよ」
「うむ。お言葉に甘えてそうさせてもらう」
会話を終えて立ち上がり、自室を出た。
陽の部屋から紗姫の居候している部屋までは、ものの数十秒。少しぼーっと歩いていれば到着する。
「……おーい、起きてるかー?」
そろそろと戸を開ける陽。寝ているようなら大人しく退散するつもりだ。
「何、してるのよ……?」
ベッドからむくりと起き上がる紗姫の頭には狐の耳が。そう言えば寝る時は尻尾も出しているという会話をした記憶もある。詳しくは覚えていない。あくまでもおぼろげに。
「夜中に女の子の部屋に忍び込むだなんて……警察呼ぶ?」
「ここは俺の家だ」
「じゃあ大声で叫んでも良いかしら?痴漢が居ますって」
「頼むから止めてくれ」
夜中だっていうのに頭が回っている事に自分でも驚きつつ、どう切り出すか考える。
「もしかして……」
「ん?」
「一緒に寝たいの?」
「なっ、そんな訳ねえだろ!」
つい大声を出してしまった。今ので月華が起きてしまったらおしまいだ。
「別に、言ってくれれば……私は……気にしない、よ?でもやっぱり……」
小声でボソボソと呟き始めた。子犬のように尻尾を振りながら。
「ああもう……単刀直入に言うぞ?紗姫、過去に何があった?あの怒り方は異常だ。忘れる訳にもいかん」
その揺れていた尻尾がピタリと止まる。まさかそんな事を聞かれるとは思わなかったみたいだ。
「俺だってそんなに頭が良い訳じゃねえけどよ。あんな事をすぐに忘れられるほど単純な頭してねえからな。いや、言いたくなけりゃそれで構わないんだが……」
「……仕方ないわね。良いわ、話してあげる……私の家族の事を……」
話さないといけない気がした。せめて、彼にだけは知っておいてもらいたかったのかもしれない。
陽に向き直り、一つ一つ思い出すように自分の過去を話し始めた。
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