〜龍と刀〜
再会と、壊との過去
壊は今のところは戦意は無い、と告げた。その言葉を信用して、警戒しつつも壊の隣に。
「時間はあんまり無いからさ。龍神との再会を喜んでらんねえな……」
「俺としても喜ぶべきかどうか考え物だ」
溜め息を吐く陽だが、その顔は心なしか嬉しさが混じっているようにも見える。
「さて、用件を伝える!決闘しようぜ!」
ビシッ!と人差し指で陽を指す。どうやら本気らしい。
「ははっ……前にもこんな事あったよな?」
「忘れもしねえさ。俺が荒れてた時期だったか……あの時は惨敗だったぜ」
*****
−−二年前だ。
ケンカっ早い事で有名な壊と、サボリに定評のある陽が対峙したのは。
その時はたまたま陽の機嫌が悪くて、たまたま、友達をやられて腹を立てていた壊が出会ってしまった。
「……」
帰り際、陽は気晴らしも兼ねてさっさと帰る事を選択。教室を出てすぐの所で彼とすれ違った。
「今、こっち見てたろ」
「……あ?」
先に因縁を付けたのは壊。どちらも極度に機嫌が悪く、一触即発の雰囲気。周りの生徒も危険を察知して二人から離れていく。
「見てたよな?俺のこと?ガン付けてただろ!」
陽の胸倉を掴み上げ、威嚇するが効いている気がしない。当然、陽はその程度で怖じ気づく訳もなく。
「触んなよ……」
胸倉に置かれた壊の腕を無理矢理引き剥がす。これが壊の逆鱗に触れたみたいだった。
「決闘だ!その生意気な口、利けなくしてやるぜ!」
「……そういうの、だるい」
なるべくなら手を出さない方向で陽は立ち去ろうと、壊に背中を向ける。敵前逃亡はしたくなかったが、やむを得ない。
「っ……!調子に、乗るなぁ!」
「はぁ……正当防衛だから大丈夫か」
その場で、教師が来るまでの殴り合いが始まった。
*****
「あの時は、あんな強いヤツが居るなんて思わなかったぜ?まぁ、そのすぐ後にこの力を手に入れたんだが」
虚空から漆黒の衣を取り出すと、髪は白くなり、瞳は深紅に。
「手に、入れた?」
「おう。親父はオカルト好きでな?実験台になったって訳だ。昔はうぜえなとか思ってたけど、今となっては嬉しい限りさ。龍神と同じ位置で戦える」
どうしてそんな事を誇らしげに、楽しそうに話せるのか理解出来ないが、陽としてはどうでも良かった。少しではあるが、友の事が聞けたから。
「そんな訳で、決闘を申し込む。文化祭もあるだろうから休日の方が良いだろ?」
「妙なとこで気を遣うんだな……確かにその方が助かるけど」
「オーケー。土曜日っと……んで、時間はどうする?任せるぜ」
本当に妙な部分で気配りを見せる。ここだけ誰かが聞けば、遊びの約束をしている友達にしか見えない。実際そうであるなら楽な話だ。
「夜と言いたいが、敢えて夕方。五時くらいだ」
「おいおい、ただのケンカじゃないんだぜ?警察沙汰だっつうの」
「結界張るから大丈夫だろ。場所は……あの広場だな?」
「お……分かってんじゃねえか龍神」
悪戯な笑みを浮かべる両者。
“あの広場”とは、教師から叱られた後に殴り合いをした場所。いわば一つの思い出の場所だ。
「お互い、決着しなきゃな。パートナーもさ」
「ああ、その通りだ。白銀もそれを望んでる」
「先に言っておくぞ、龍神……」
声を低くして、深紅の瞳で陽を捉える。お遊びの時間は終わりらしい。
「戦いは生きるか死ぬかだ。特に男同士の決闘はな」
「知ってるさ。つまり、本気でやれって事だろ?それなら心配するな。俺は手加減が出来ないからな」
一陣の風が二人の間を駆け抜ける。
しばしの、別れの合図だった。
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