〜龍と刀〜
喫茶店の内容U
「……じゃあ今日はこの位で。手伝ってくれてありがとう!解散〜」
中島が手を叩くと、それぞれが小さいグループを形成した。急いで帰る者、文化祭の話に花を咲かせる者もいれば、他のクラスに遊びに行こうとする者と様々。
結局決まったのは、品物と服装、ウェイターやレジ係などの基本的だが重要な事だ。
「さて、帰るか……」
「龍神ー!」
「だが断る」
「まだ何も言ってない!」
いつもと何ら変わりの無い受け答え。むしろ、毎回同じような気がしている陽だった。
「さすがに今日は直帰するぜ。昨日買ったゲームをクリアしなきゃな」
「一日でか……?」
「おうよ!最初はストーリーは全部スキップして絵と音楽を楽しみ、二周目でストーリーを噛み締める……そして、三周目には全クリ!これこそゲーマーだっ」
独自のゲームの遊び方を語る井上だったが、陽はこれっぽっちも耳に入れていない。聞く必要性は皆無だから。
「中島はどうする?」
「僕も帰るよ。色々まとめなきゃダメみたいだし……井上のせいで」
メモを取っていた紙をカバンに入れ、立ち上がる。井上のリーダーシップの無さで、中島が文化祭の委員になってしまったのだ。
「大変だな。俺は服の値段とかを調べてみるか……」
「頼むよ。井上は使えないからね」
「あ、おい!待てよ!」
すっかりゲーム論に呑まれていた井上が、先に歩き出した二人を追い掛ける。
「つまりだ!現実よりも二次元−−」
「……うるさいな。黙らせるか」
「あはは、そりゃ良いね……ん?龍神、何か落ちたよ?」
玄関に来てまで騒ぎ散らしている井上をそろそろ沈黙させようと、自分の下駄箱から靴を取り出した時だ。
中島に指摘されて足元を見ると、質素な紙の封筒が。
「……」
「……龍神、まさか!?それは!」
「何でだろうな?俺、最近封筒に縁があるみたいだ……」
その場に居た三人が反応を示す。
考えられる物なんて、一つしかなかった。
「ラヴレターとかいうのか?そうなのか?龍神答えろっ!」
「知らねえよ!脅迫状かもしれねえだろ!」
「あ、なるほどぉ……って、あるか!」
こんな風にやる脅迫状など見た事も無いのだが。とりあえず封を切って中身を確認。
「で、内容は……?」
「ワクワクするね」
「……ちょっと行ってくる。先帰っててくれ」
それだけ言い残して颯爽と姿を消す。
手紙に書かれていた指定場所は屋上だ。相手が分からない以上、待たせるのは気が進まない。
玄関から屋上までは、そんなにかからない。夏休みの術式空間とは違うのだから。
「……」
全速力で階段を駆け上がって来た。この扉を開ければ、誰が呼んだかはっきりする。もし、もし告白だったとしても自分はどう答えられるか……。
そんな思いもあるのだが、陽は別の予感を抱きながらドアノブに手を置き、一気に押した。
「何で、お前がここに居る?」
とっさに口を突いた言葉がこれだ。金網にもたれて夕暮れの街を眺めている、同じ制服を着た“少年”。
「久しぶりだな。龍神?元気だった?」
「……もう一度聞くぞ。何で居る……飛澤!」
そこに居たのは、敵となったはずの壊だった。壊は赤みがかった両目を細め、たった一言。
「果たし状を渡しにな。いや、決着のお誘いか」
「ふざけるなよ?お望みなら今すぐにでも−−」
「あーあー、悪かったって。素手でやったら勝てねえからな。まずは、ちっとばかし話を聞いてくれや」
自分でも感情的になっていた事に気付き、一旦身を引く。
それをしっかりと確認した壊は、少し間を開けてから、ようやく口を開いた。
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