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〜龍と刀〜

*****


そこは漆黒が支配する空間。
夜よりも更に深い闇。
風はおろか、温度や臭いも感じる事が出来ない。
分かるのは自分が何者かと戦っている事。
戦っていると言っても、一方的に殴られ、蹴られ。
なぜか自分は反撃をしない。
普段なら、そんな事は有り得ないのに。
ただ相手の攻撃を受け、歯を食いしばり、痛みに耐える。

相手はこう言った。

『このまま死ぬのか、お前は?死にたくなかったら戦え。戦え、戦え……』

聞き慣れた声が幾重にも重なって。
“戦え”と言う。それはまるで呪詛のように紡がれて、頭の中に入り込んで来る。

相手は拳を握る。
足を大きく開き、大地に爪を立てるように力を込める。
その力を膝に、腕に、拳に伝える。
肩をひねり、拳を渾身の勢いで突き出す。

そこに居た相手は紛れもなく自分の姿で、口元は笑みで歪んでいた。
普段人に向けるような物ではなく、血に飢えた獣みたいに獰猛で、恐怖すら与える物だった。

攻撃をまともに受け、吹き飛ばされる。
下にある闇は水のように冷たく、気を許せば呑まれてしまいそうだ。それくらい、美しかった。

闇は、倒れた自分を取り込もうとまとわりつく。それに身を委ねれば、良いと思った。なぜかは分からないが、そうすれば楽になると、そう思った。


*****


「ん……(夢、か……妙にリアルだったな。あの、闇の感触とか……)」

すっかり目が覚めてしまった。時間を確認しようと顔を上げる。

約十二時。

大体二時間弱くらいは寝ていた。号令にも立っていないから、実質、一度も起きる事無く寝ていたいたようだ。
時計を見た時に教師と目が合ってしまった。
今はどうやら、理科のようだ。

「龍神、ここの分野に興味があるんだな!?」

「いや、無いです。そもそも学校自体に興味なんて−−」

無い、と言おうとした矢先に先手を打たれた。

「原子力発電って言うのはな、原子の核融合で出来るんだ。ウラン、プルトニウムを遠心力で回して、一部の奴で電気を起こす。太陽はその核融合を独自で行ってるんだがな−−」

理科教師は、このまま陽を勉強の世界に引きずり込みたいらしい。
多分、脱線している。陽にでも分かるくらいに。
黒板を見ても、周りの教科書を見ても、そんな事は一切書いていない。

ダメ元で周りに助けを請う。特に、後ろに居るクラス委員長に。

「春空、どうにかならないか?これじゃみんな勉強出来ないだろ?」

「私には……無理です」

クラス委員長、春空 望(ハルゾラ ノゾミ)はあまり人と話したがらないが、なぜか陽にだけは結構反応をしてくれる。
ある人曰わく、「懐いているんじゃない?」との事らしい。
失礼ではあるが、確かに、小さい。しかも、幻想的な白い髪を持ち合わせているせいか、人形、もしくは小動物という例えが似合う。

陽が特に何をしたという記憶は無いが、助けてくれるので陽自身もかなり嬉しく思っている。

どうしようかと悩んでいると、手紙が回ってきた。
内容はこうだ。

『頑張れ!理科をつぶすんだ!』

お世辞でもキレイとは言えない字で綴られていた。

「(ふ、ふざけるなー!)」

差出人が親指を立てているのに、腹が立ち、手紙を跡形もなく引きちぎってやった。

結局陽は一時間一杯、説明を聞かされる事になってしまった。

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あきゅろす。
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