〜龍と刀〜
とある一報
*****
家に到着した陽は、郵便受けに入っていた茶封筒を見つける。
「あ、お帰りー」
パタパタと、台所から出て来たらしいエプロン姿の月華。不思議そうに、陽の手元に目線をやる。
「陽ちゃん、それは?」
「ん?あぁ。剣術の大元からのお知らせみたいなやつだ。飯出来たら呼んでくれ」
宛先は協会。今時、墨で書いて寄越すだろうかとも問いたいが、古き良き文化だと解釈しておこう。
月華に嘘のようで嘘でもない事を告げ、自室へと向かおうとすると、
「紗姫ちゃんは一緒じゃなかったの?」
月華が首を傾げながら陽に聞いた。
「……多分そろそろ来るんじゃないか?俺が早く帰っただけだしな」
紗姫は夏休み前から、『剣凰流』の門下生もとい居候としてこの家に住んでいる。その事がどこからか風の噂で流れ、学校中に広まってしまった。こうして陽は教師に問い質される羽目に。
「ふぅん……じゃあ紗姫ちゃん帰って来るまで準備しないからね〜」
「あ、おい!それは困るぞ……ったく」
聞く耳持たず、といった感じで台所へと戻っていく後ろ姿を眺め、溜め息一つ。
階段をのろのろと登り、自室に入る。
「妙に疲れた一日だったぜ……さてさて協会から手紙なんて久しぶりだな」
「何やら楽しそうだが……?」
「実際は全っ然楽しくない……少しくらい明るくしてないと、疲れに襲われそうでなぁ」
白銀と会話を交わしながら封筒を切り、中身を取り出す。入っていたのは、数枚の紙だけのようだ。
「拝啓、残暑厳しい中、いかがお過ごしでしょうか……こっから入るのか。本題はどこだよ」
一枚目にはびっしりと挨拶や、最近の時勢について書き込まれていた。しかも手書きで。
「二枚目は、と……、一級厳戒令だと?」
「む?協会がそこまで危惧しているのか……奴らでは無いのか?」
「待て待て……日本各地に多数の魔物被害。こちらで駆除しただけでも、千以上は確実」
指で文章をなぞりながら読み進めていく。白銀は、何か思案しているのか、時折うめき声とも取れる声を発する。
「魔物駆除に出た協会関係者、複数が行方不明……周囲に争った痕跡が見られ、魔物統率者が居る模様。注意されたし……」
「行方不明、が気に掛かるな。他に何か分からぬか?」
ある程度の目星を付けたらしい白銀。更なる情報で、確信に至るのかもしれない。
「あったぞ……ここからは剣凰のみ、だとさ」
わざわざ赤で目印を付けているのだが、ここまで読めば先まで読む事を予想出来なかったのだろうか。
「統率者は黒衣と、鎌……?まさか、飛澤か?」
「……あの時、封牙を持ち去った男か。ならば、封牙を携えていると見るのが正しいな」
「いや白銀、ここに書いてある中に刀なんて単語は無い……」
最後に書かれていたのは、魔物統率者の姿形。白い髪に赤い瞳、ボロボロの黒衣と巨大な鎌。瞬時に壊の事だ、と答えに至る。
「……賜った姿を捨てたか、封牙め」
「どういう事だ?」
白銀は刀身を煌めかせ、こう答えた。
「我らは、そもそも魂なのだ。魔術で魂を移す事も不可能ではない……特に、西洋魔術ではな」
皮肉たっぷりに語る白銀。白銀がずっとこの姿なのは、自身の信念を貫くためだ。
「なるほど……どうやら、近い内にケリを着ける事になりそうだな。お互いに」
「うむ。奴とはこうなる運命だったのかもしれぬな……」
密かに燃やす闘志。
そんな二人を露知らず、階下から月華の緊張感の無い声。
「陽ちゃーん!紗姫ちゃん帰って来たから、ご飯だよー!」
「腹が減っては戦は出来ぬ、ってな。今行くぞ!」
封筒を引き出しの中にねじ込みながら、陽は対決の予感を、遠からず感じるのであった。
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