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その他
【ときレス】レス子さんの女子力(物理)がマジパネェ件について
「お待たせしました、トニックウォーターとミルクティー、ジンジャーエール、ドーナツになります」
「ああ、ありがとう」

 彼女はすいすいと、3 Majestyのメンバーの前に飲み物を置いていく。
 その様子を、メンバーは引き寄せられる様に、静かに見守った。
司の前には、トニックウォーターのボトルとグラス。魁斗の前には、ジンジャーエール。慎之介の前には、紅茶とピッチャーを2つ。ピッチャーの中身は、慎之介がリクエストしたミルクと蜂蜜だ。そして最後に、テーブルの中央にドーナツが6つ並んだ皿を置いた。
 誰がどのメニューを頼んだのか、彼女が確認をする事はない。相手は店の常連客であり、親しい者達。好みをしっかりと把握しているので、わざわざ確認する必要がないのだ。

「ありがとう」
「ども」

 慎之介がにっこりと微笑み、魁斗が身を縮ませるように小さく会釈する。
 彼女は、嬉しそうに微笑み返した。

「フフフ、ごゆっくりどうぞ♪」
「すいませ〜ん、オーダーお願いします」
「はい、かしこまりました〜」

 小走りで他の客の元に駆けていく後ろ姿を、3人は見送った。

「今日もがんばってるね、あの娘」

 楽しそうに笑いながら慎之介がピッチャーを摘んで、紅茶に蜂蜜を流し入れる。

「ああ。献身的で、見ていて心地良い。料理の腕も良いが、マスターとしても適切な人柄なんだろうな」

 と言うと、司はグラスにトニックウォーターを注いだ。

「なんか、見てて元気出るよな。優しいし」

 魁斗はグラスに挿してあるライムをジンジャーエールに沈め、ストローの先で軽く潰す。グラスに沈むライムを見ていたのは最初だけで、それ以降は、厨房に向かう彼女の姿を目で追い続けた。

「そう、ジンジャーエールにライムを添えてほしいなんて、カイトのワガママにも応じてくれたしね♪」
「なっ! ライムがあった方が、おいしくなるんだよ……。そういうシン君こそ、わざわざ蜂蜜用意してもらってるじゃん!」
「だって、そっちの方がおいしいんだよ♪」
「二人とも、静かにしないか」

 司にたしなめられて、魁斗は不満げながらも口を閉ざす。そして、そっと視線を、彼女が消えた厨房へと向けた。
 寮の近くにある、値段も手頃、メニューも豊富なレストラン。
 しかしこの店に来る理由は、それだけではなかった。

「カイト、よそ見しているとこぼすぞ」
「違うっ、ちょっと見てただけだよ……。霧島君、うるさい」

 と口を尖らせて、魁斗が視線をグラスに戻しかける。
 その時、彼の目に、一人の客に目が止まった。
 中年の男だ。4人掛けのテーブルに座っているが、連れらしい人の姿は見当たらない。
 男はチラチラと、何度も厨房に視線を送っている。頼んだ料理を待ちわびているようにも見えるが、テーブルの上の皿は全て空だ。皿数がやけに多いが、一人で2人前以上食べたのだろうか。
 さらによく見ると、その右手には伝票が握られている。そして厨房だけではなく、店の入り口にも、時折目を配っている。
 忙しそうな彼女を気遣って、会計を頼むチャンスを伺っているのが。そう思ったが、どうにも様子がおかしい。コソコソと様子を伺うなんて。

(なんだ、こいつ……?)

 雑談を楽しむメンバーをよそに、魁斗は怪訝そうに男を観察する。
 魁斗の視線の先で、男はゆっくりと立ち上がり、入り口へと向かった。

「カイトもドーナツ食べる?」
「しっ。静かに、シン君ッ」
「どうした、魁斗?」
「霧島君も黙って」

 視線は男からはずさないまま、魁斗は己の口元に人差し指を当てる。
 3人が見守る中、男がレジの前に立つ。
 男は、もう一度厨房を伺うと、弾ける様に側のドアに駆け寄り、手すりに手を掛けた。

(こいつ、食い逃げだ――!!)

「ちょっと待てよっ、オッサン!!!」

 その声の大きさに、店内にいる客の視線が一斉に魁斗に集まる。
 その事に構わず、魁斗は声を張り上げる。

「金払ってから帰れ!!」 
「ひいぃっ!!」

 慌てて男がドアを押し開けて、外に駆け出す。

「この……、待てぇっ!!」

 逃がすまいと、魁斗がその後を追う。
 そしてすぐに状況を把握した司と慎之介も、その後に続いた。

「逃がすかっ、この野郎!!」

 通りを歩く人達が、何事かと振り返る。
 人が多いところでは、目立つ行動は避ける様に。そう事務所から指導されているが、今は別だ。3人は、男を全力で追いかけた。

「待てぇっ!!」

 普段からダンスのレッスンを受けているだけあって、3人とも運動神経は良く、足も早い。
 しかし男の方も、捕まるまいと必死だ。
 さらに運が悪いことに、3 Majestyがいたのは、店の一番奥のテーブル。レイアウトの関係で入口の様子がよく伺えるが、そこから最も離れている席だ。その為、店を出る時点で、男との距離はかなり開いてしまった。
 少しずつ距離は縮まっていくが、まだ伸ばした手が男の肩を掠めそうにない。

「はぁ……止まれ!!」

 その時、3人の横を何かが追い越した。
 土煙を巻き上げながら駆け抜ける、小さな人影だ。

(何だ? ――――って、)

「「「えぇぇぇぇぇっ!!!??」」」

 その頭部が桃色の髪に覆われていることに気付いた3人は、揃って目を見開いた。
 間違いない、彼女だ。
 3人が呆気に取られている中、彼女はみるみるうちに男との距離を縮めていく。
 そして男の腕をつかむと、素早くその腕を肩に回す。

「うおりゃぁぁぁっ!!!」

 彼女の一声と共に、男の身体が宙に舞う。
 そして、地面に叩き付けられた。

「い、今のは……」
「一本背負、綺麗に決まったな……」
「すごいね、君って……」

 呆気に取られて立ち尽くす3人に、彼女はにっこりと微笑みかける。

「ごめんね、追いかけてもらって」
「い、いや……」

 彼女は目を回している男の身体をひょいと持ち上げると、肩に担いだ。成人男性、しかも自分よりも二回り以上身体が大きな男を、袋入りで販売されている米でも担ぎ上げる様に、軽々と。
 あまりの様に、一同声が出ない。
 ようやく、司が声をかけた。

「て……手伝うよ」
「ありがとう、司さん。でも、これくらいどうってコトないから、気持ちだけもらうね」
「どうってコトないって……」

(((いや、どうってコトあるだろう!!!)))

「じゃ私、この人を交番に連れてきます」

と言って、彼女は歩き始める。これで重さに負けてよろめいてくれたら、3人のショックはまだ抑えられたのに、彼女の足取りは至って普通。堂々としたものだ。
 立ち去る彼女の背中を呆然と見送りながら、慎之介がポツリと呟く。

「お店の模様替えって、全部彼女一人でやってるんだよね……」
「そうなのかっ?」
「うん、前に本人から聞いたよ」

 重たいキャビネットも、大きな信楽焼の狸の置物も、4人がけの大テーブルも。今まで全部、一人で運んでいたのか。

「その時は、冗談を言ってるんだと思ったんだけどね……」
「マジかよ……。いや、納得できる、今なら……」
「二人とも、これからは店で失礼の無い様に振る舞え。間違っても、ツケで食べようと思うな。わがままも言うな。いいな?」
「……うん」
「そうする……」

 司の言葉に、二人はただ頷く。
 そして3人は、確実に遠ざかっていく背中を、呆然と眺め続けた。

おわり

【あとがき】

ときレスユーザーなら一度は考えた事があと思います。

料理を作ろうと、調理台に猛ダッシュするレス子さん。
なんて足が早いんだ…!
店のレイアウト、誰がテーブルとか運んでるんだろう?
マスターはおじいちゃんだから、力仕事は無理そうだし……。

結論。レス子さんの女子力(物理)はマジパネェと(笑)

諸事情により私は12月で閉店してしまいましたが、しんどくも楽しいゲームでした。
CD発売おめでとうございます!!

(2014.02.23)




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