式神の城
【日向×美姫】本日はブラックデー・3
「ハムッケ ヘムルジョン オイキムチ ヂュセヨ(それと海鮮チヂミと、きゅうりのキムチもくれ)」
「ネー アラッスムニダ(はい、わかりました)」
「おいおい、随分と豪勢だな」
美姫がメインの料理以外に、キムチやら飲み物やら合わせて5品も頼むので、日向は驚きの声を上げた。
「迷惑をかけたんだ。これ位は当然だろう」
「それにしても高過ぎやしないか? このサムゲタンなんて2,000円近くするぞ」
日向がメニューに載っている写真を指差す。
「いいんだ、私はコラーゲンを摂取したいんだ。夜勤明けで疲れているから、滋養強壮になる料理が食べたいんだ。食べるのは私なんだから、つべこべ言うな」
(しかしな〜……)
鶏が丸ごと1匹入った見るからに高そうなスープなど、彼には縁がないものだ。
彼女の散財癖は知っているが、こうも目の当たりにすると、300円のチャジャン麺に躊躇した貧乏性な自分が侘しく感じてしまう。自然と口から溜め息が漏れた。
「それよりも……」
水を一口飲むと、美姫は腕を組み、身を乗り出す。
そして、どう見ても不自然に、にっこりと笑ってみせた。
「他に言わなくちゃいけない事があるんじゃないか、ん〜?」
「すまん」
即座にチャジャン麺の皿を避けると、日向はテーブルに鼻がつくくらい深々と頭を下げる。
「知らなかったとは言え、俺が悪かった」
「反省してるか?」
「この通りだ」
美姫は作り笑いをやめると、未だ頭を下げる彼の姿を眺めた。
やがて彼女は溜め息をついた。
「いや、もういい」
文化の違いにも、この男の性格や素行にも、いい加減慣れないといけないのかもしれない。そう感じた。
「なぁ、美姫」
日向が顔を上げる。
「結局のところ、ブラックデーって何なんだ?」
美姫は再び溜め息をつくと、タイミング良く運ばれてきたきゅうりのキムチを一切れ、口に運んだ。
ゆっくり噛みながら、言葉を選ぶ。
やがてそれを飲み込むと、もう一度息を吐いてから、じっと日向の顔を見つめて口を開いた。
「2月14日は、何の日だ?」
「……バレンタイン?」
「じゃ、3月14日は?」
「ホワイトデー…………、あぁ、ブラックデーって、その並び的なイベントか」
掴みかけてた真相がようやく明確になり、日向が申し訳なさそうに顔をしかめた。
「そうだ。恋人のいない者達がその証として黒い服に身を包み、チャジャンミョンやらブラックコーヒーやら黒い料理を食しながら恋人を探す、ガルガムの陰湿なる策略だ」
「いや、それきっとカルガム関係ないから」
「全くガルガムめ……」
キムチをポイポイと口に放り込む美姫を見て、そんなに続けて食べて、辛くないはないのだろうか、と日向は溜め息をついた。
ふと、ある事に気付き、店内を見回す。
「なあ、もしかすると……今の俺の恰好は、物凄く気合いの入った恰好なのか?」
「だろうな。いかにも『恋人募集中』って感じだろうな」
意地悪っぽく美姫が笑うので、日向は情けない顔をした。
黒いスーツに、黒い帽子、サングラス。普段どおりの恰好をしているだけなのに、今だけはいたたまれなくなる。
今考えれば、先程、年配の女性店員から「がんばってね」と言われたのは、そういう意味だったのか。そう思うと尚の事、気分が沈んだ。
「勘弁してくれ〜。俺が悪かったって言っているだろう」
その様がおかしくて、美姫は笑みを深めた。
「これに懲りたら、もう二度とブラックデーにチャジャンミョンを食べるな。わかったか?」
「言われなくてもそうする。アンタに殴られるのは、もうこりごりだからな」
と言うと、日向はまだ少し腫れている頬に触れる。痛みに一瞬顔をしかめた後、サングラス越しに目を細めた。
「それに美姫、浮気したなんてアンタに疑われるのも嫌だからな。すまなかった」
「何が浮気だ? ……勝手に言ってろ」
吐き捨てると、美姫は箸を進める。
それを見て、日向は幸せそうに笑みを深めた。
おわり
初出 2008/05/05 Mixiの日記より 【あとがき】
マイミクのかげつさんからいただいたバトンの罰ゲームとして、書いたものです。
日向×美姫を書いてくれという内容でしたが、美姫さんの性格、間違ってる様な気が……。
美姫さんを初めて書きましたが難しいです。
かげつさん、本当にすいませんm(_ _;)m
ブラックデーのネタなのに、なんで5月に書いたかと言いますと……、ま、いつもの遅筆のせいなんですけど。
この話は、全てケータイで書きました。
当時PCがリカバリかけてもどうしようもないくらいヤヴァくて、全部ケータイで書いたため、遅くなりましたf^_^;
ケータイだと移動中でも書けるけど、全体の読み直しがしにくい所為か、描写が甘かったり、バランスなどの微調整がしにくいのが難ですね。
読みにくい文章で申し訳ありませんm(_ _)m
文中に出てくる韓国語について。
(4月14日に間に合わなかった、もう一つの理由)
文中に出てくる韓国語は、ケータイでサイトを探したり、本を色々と見たりして調べました。
日向さんの心境がリアルに伝わるかな〜と思って使ってみたのですが、喋れないのに試みた私が甘かったです……orz
(韓国語は話せません、ハングルも読めません( ̄▽ ̄;))
ここで出てきた韓国語は、よそでは絶対にっ、使わない様にお願いします。
韓国語もそうですが、外国語の発音って独特のものがあって、カタカナ表記だと限界がありますよね。
本やサイトによっては、ム・ルなどの子音を小さくしたり半角で記載して、実際の発音に近づけていましたが、今回は全て全角表記にしました。
(ケータイから投稿すると、半角文字が全角に化けるため)
だから私が掲載した通りに喋っても、韓国の方にはまず通じないと思います( ̄▽ ̄;)
あと韓国語って、砕けた言い方、丁寧な言い方、もっと丁寧な堅苦しい言い方、みたいに同じ表現でも何通りか言い方があるらしく、もしかすると、皆さんがご存じのものと、若干違うかもしれません。その点もご了承ください。
余談ですが、訳がついてない文中のセリフについて……。
「チョッククチョギン!」
(気合い入ってるね!)
「ジェ イルムン ゴ・スジョン イムニダ ソンハミ モシッスムニダ マンナソ バンガプスムニダ」
(私の名前はゴ・スジョンと言います。貴方はかっこいいわね、貴方に会えて嬉しいわ)
「ソンハミ オットケ テセヨ? ミョッサリセヨ?」
(貴方、何て名前なの? 歳はいくつ?)
「? ソンハミ ハングルマル ハルチュル アセヨ?」
(? 貴方、韓国語話せるの?)
こんな意味でした(とりあえずはf^_^;)。
そういえば、チヂミって方言で、正しくは「ジョン」って言うらしいですね。
(2009.10.16追記)
ブログサイトからPCサイトへの移行に伴い、テーブルタグを使って、ポスターの部分をそれっぽい表示にしてみました。
でもチャジャン麺のフリー画像が見つからなかったので、中途半端な表示になってしまいましたね。
気が向いたら、自分でチャジャン麺を作って撮影した画像を載せてみようかと思います。
自分で作ったものなら、画像使用に関して、とやかく言われませんし。
(……あくまで、『気が向いたら』ですが)
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