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旋光の輪舞<小説形式>
【ファビリリ+グスタフ】腕時計


※ファビリリなのにリリがほとんど出てきません。グスタフが出張ってます(苦笑)
※1年以上前(家庭用発売前)に書いたものなので、グスタフが全然黒くありません。
 何かいい兄ちゃんしてます(苦笑)





 グローブの裾をめくって、ファビアンが腕時計の文字盤を見る。

「14時45分か……。そろそろ俺、隊長会議に行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、ファビアン隊長」

 自分の席で報告書をまとめていたリリが、キーボードを打つ手を止め、ファビアンに微笑みかける。

「おっ、隊長の時計いいね〜♪」

 グスタフが、彼の腕を覗き込む。

「あ、サンキュー」

 誉められたのが嬉しくて、彼は歯を見せて笑った。



 ファビアンは黒い革製のバンドの腕時計をしていた。
 文字盤にメインとなる時刻表示用の他に、3つのサブダイヤルとカレンダーを搭載しているので、ミリタリーウォッチである事がすぐにわかる。サブダイヤルが多いので一見ゴチャゴチャした印象も受けるが、各サブダイヤルとカレンダーをバランス良く配置したうえ、数字を大きくし、長針と短針のデザインを改良しているので、視認性が高くなっている。
 何より、厚みを抑えたスマートなデザインになっているので、ファビアンに良く似合っていた。



「これ、フォルティじゃん。隊長サンにしては、いい趣味してる〜♪」
「『俺にして』は余計だ、ったく」

 先程の笑顔から一転。ファビアンは、笑顔のグスタフの顔を睨みつけた。

 フォルティはミリタリーウォッチのブランドの一つで、非常に長い歴史があるブランドだ。機能性のみならずデザイン性も高いことから、若い男性に特に人気が高い。アーリア軍でも愛用者が多く、ファビアンもその一人だ。

「フォルティじゃ、高くついたんじゃね?」
「ん、まぁな。これ買った時はまだS.S.S.に入った年でさ、どうしても欲しくて、必死になって金貯めたっけな」
「ここ入った年って……、随分使ってますね」

 そう言うグスタフの目が、風防に何ヶ所かに付いた擦り傷を目敏く見つけた。

「ああ、もう5年くらい使ってるぜ」
「5年も? 物持ちいいな〜!」

 グスタフは感嘆の声をあげた。

「そんなにも使ってると、いい加減飽きないの? ベルト切れません?」
「そう簡単に飽きる訳ないだろ、お前じゃあるまいし。ベルトだって、交換すれば済むだろう」
「そんなモンすか〜? 他には持ってないの?」
「ねぇよ、時計なんて気に入ってる1個があれば、それで十分だろう」
「ふ〜ん……」
「な、何だよ?」

 急にニヤニヤと笑い出した彼の顔を、ファビアンは訝しげに見る。



「その時計さ、一生使いたいとか思ってる?」
「んな先の事、わかるかよ。……けど、まぁ、」

 ファビアンは時計を見下ろす。
 あの時、ショーケースの中に展示されていたこの時計に強く引き付けられた。そして試着し、機能など仕様を確認してから、せっせと生活費を切り詰めて、ようやく手に入れた。
 それ以来、毎日の様に身につけている、大切なものだ。

 ファビアンは、すぅ、と、目を細めた。

「そんだけ付き合えれば、いいよな」

 その様子を、グスタフは楽しそうに見つめた。

「にゃるほど〜。んじゃ、もいっこ質問。隊長サンにとって、腕時計ってどんな存在?」
「は? 何だよ、急に?」
「気に入った1個と一生付き合ってきたいとか、そんな感じ?」
「まぁ、そんなんだろうな……」
「にゃるほどね〜♪」
「何だよ、さっきからニヤニヤして。気味悪ィな」
「お気になさらず〜♪」

 グスタフは、ニヤニヤと笑うだけだった。



「あ、あの隊長……っ、そろそろ出た方が……」
「ああ、そうだな。サンキュー、リリ」

 ファビアンはデスクの上のノートを手にすると、足早に部屋を出ていく。



 その後ろ姿を見届けるリリに、グスタフが声をかけた。

「リリさん、リリさん」
「何でしょうか、グスタフさん?」

 リリが振り返ると、笑いながら彼が近づいてきた。

「隊長サン、随分気に入ってるみたいですね〜。1個ありゃ十分だとか、出来れば一生使いたいだなんて」
「ええ、お出かけなさる時もいつも、あの時計を付けてますよ」
「にゃるほど〜、『いつも』と言えるほど頻繁にデートしてるんですね〜♪」

 その途端、彼女は顔を真っ赤にした。

「ちっ、違いますっ! お出かけすると言っても、お買い物やお食事をご一緒しているだけで、その……っ、お付き合いしている訳では……」

 リリはわたわたと両手を振って否定する。
 その様子に、グスタフはニヤニヤと笑う。

「そう言えば知ってる、リリさん?」
「ですから私達は……って、はっ、はい、何でしょうか?」
「心理テストなんだけどね……」

 と、言いながらグスタフは、服の右袖を押し上げる様に捲くる。
 そして手首に嵌めていたデジタル式の腕時計を、右手の人差し指でちょんちょんと差した。

「腕時計に対する価値観って、恋人に対する価値観と一緒なんだって♪」
「そっ、それって……」
「良かったね〜、彼氏が一生大事にしてくれるヒトで♪」
「いっ、いえ! わ、私達はです、ねっ、そのっ……お、お付き合いは、まだ……」

 顔だけではなく耳まで真っ赤にして、どもりながら否定する小さな先輩の姿を、グスタフは楽しそうに眺めた。


おわり

【あとがき】

以前、WEB拍手のお礼用にアップしていたものです。
ファビリリなのに、リリの出番がほとんどなくてごめんなさい。
(何か私の話、そういうの多いですね(汗))
始めは『腕時計の心理テスト』をテーマに色々と書く予定でしたが、後が続かなくて断念しましたorz
ファビアンって、気に入った物をずっと使い続けるタイプじゃないかなと、個人的には思います。ランダーだって軍用にカスタマイズしつつも、学生の頃からずっと同じ機体を使い続けてるし。

これを書いた時は去年の2〜3月で、DUOの家庭用が発売される前だったので、グスタフに腹黒さが全然ありませんね。何かいい兄ちゃんしてる(苦笑)
グスタフはスパイじゃなくて、皮肉屋なチャラい兄ちゃんだと思ってましたからね、当時は(苦笑)
そう言えば家庭用発売以降、腹黒い正統派(?)グスタフを一度も書いてませんね。
一度どす黒い彼を書いてみたいです(笑)

(2011.05.23)
(初稿:2010年3月頃(正確な日は忘れました(汗))


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