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Hello, Say Good Bye
予期せぬ人物の訪問_Miyabi






昼休み前の授業を公欠扱いにしてもらった。
生徒会室に行けば、風紀委員になった1年が少し緊張気味に立っていてそれに笑いながら中へと入った。
中に入ると書記がいて、給湯室から副会長様が出てきた。
コップの数を数えたけど人数分ない。
なんで、嫌われちゃってんのかなー。いつもこうだ。
仕方なくコップを取りに行って、水を注いだ。

「そちらの副委員長はまだいらっしゃっていないのですか?」

「政先輩は、授業を少しでも聞いておきたいらしいからねー。ほら、受験生だし。
だから、もう少し経ったら合流するってさー」

「相手が先輩と言えど、委員の制御も出来ないなんて呆れた話ですね」

「それほどでもー、ほら、だって『お飾り』だし」

「あなたが先輩では後輩も気の毒ですよ。本当に」

嘲笑された。愁汰の目が怖い。
そうしたら、頭脳派の相川くんが口を開いた。
口元に笑みを浮かべているけど、纏う空気は冷たい。
美人さんだから余計にね。

「僕らは別段、気の毒でもありませんよ。篠宮副会長。
我々は、安藤先輩だからこそ風紀入りしたも同然ですから」

「…そうですか。えらく慕われているようですね、安藤」

「あー、えっと、俺も雄大に同意っすよ。先輩!」

今まで口を開かなかった爽やかくんがにこにことした笑顔で言った。んで、間髪入れずに実が爆笑。
爽やかくんこと、田淵くんは盛大に頭に?マークを浮かべてる。

「…それでー、えーと、今回は転入生の事だっけー」

「私から風紀に提案があります。彼を警護対象にしていただきたい。
可愛い梓が誰かにいつ狙われるとも限りませんから」

「聞き間違いだったらごめんねー。却下に決まってるでしょー。
個人警護は本当に危うい時だけの決まりなんだし、ねー、政せんぱーい」

「こちらには人員を割く余裕はない」

はっきり先輩から告げられた言葉に、悔しそうに副会長が唇を噛んだ。
あー、傷ついちゃうよ。なんて、笑って見せたらまたヒステリックに喚くだろうから止めておいた。
彼は本当に俺の母親を思い起こさせるんだよねー。

ちなみに、政先輩が言ったのはウソじゃない。
風紀委員が正式に発足したのは前委員長が助力したからだし。
準風紀組織入れても10人くらいだ。
いくら可愛いからって、いじめとか受けてる子は今だって他にいるんだからねぇ。
目安箱にもう何人も助けてほしいと願い出ている。
教師はいじめっ子の後ろ盾の親が怖くて強気に出られない。
稲葉せんせー様はそんな奴らとは別世界で別思考。
あの人も強力なコネがあるらしいから好き放題だし、怯える事もない。

強姦未遂を何度も受けてるとか、頻繁に暴力を受けてるとか、そんなんじゃない限り、許可は下らない。
昨日、今日、入学してきた子だ。

いきなり特別扱いしろって一般生徒が許さない。

「なら、見せたくはないですが梓を見てから言ってください!」

「ねー。梓ちゃんって一般生徒だよねー?」

「そうですが、何か!?」

実がヒステリックに返されて目を丸くしていたけど、緩く口元に笑みを浮かべた。
目なんてもう楽しくて仕方ないって感じに。

「思いっきりサボってんだけどー。てか、こっちの校舎入ってきてるし」

「宗田。この件は後から片づける。一応、カギを閉めろ。
今は、次の議題があるからな。行事について話し合わなければならない」

愁汰が会長さんらしく場を仕切ってる姿に誇らしさを感じた。

「あいあいさー」と宗田こと実がカギを掛けて議会が進行する。

「体育祭までは日数がある。が、全校交流の親睦パーティを開くようにと理事からの提案があった」

「親睦ぱーてぃー?」

堅苦しい祖父宅で行われていたものと同じなのだろうか?
それとも少しはカジュアルなものとか?
俺の頭の中は初めて接するものに?マークで埋め尽くされた。
俺が入学してきて今まで一回もなかったしね。

「俺らと一般生徒の交流を深める場でもあるんだ。
理事の気まぐれで行われるもののせいで開催趣旨もバラバラ。
生徒の都合はお構いなしなはた迷惑な行事って覚えておけばいい」

政先輩が「林間学校が避暑地であるようなもんだ」と付け足して納得した。

「で、風紀は何をすればいいのー?」

本題に移ろうと愁汰へ目配せするとフッと笑われた。

「その日は生徒が浮足立っている。
だから、必然的に馬鹿な事をやらかす奴も多くなる。見回りを強化してほしい」

「強化ですか。準組織を使う許可はありますでしょうか?」

相川くんが口を挟む。

「致し方がないのでとってあります。
あんな不良集団の方がよっぽど性質の悪いと思いますがね、会長。
粗野で野蛮な奴らを使うなんて考えられない……っ」

ふくかいちょー、あうとー!(デデーン)
何かが割れる音がして振り向くと、魔王様降臨中だった。
きゃー、こわーい。高そうな花瓶が割れている。
あーあ。経費は生徒会持ちにしてもらおう。
早速、相川くんは実に掛け合ってる。けど、上手く行ってない。
だって、実の顔が嬉々としてるけど、相川くんは分かりやすい位に苛立ってる。
腰を撫でまわしてる手とかその煮え切らない態度が原因だろう。

仲裁に入ろうと足を動かした途端、今度はこちらで事が動いた。

「もういっぺん言ってみろ。はっきりと、俺の目を見て言え」

いつもの優しさ?そんなもの、今の政先輩には皆無だ。
魔王ではなく、裏稼業の顔が出ちゃってる。
準組織に属してるのは、政先輩の弟分とか側近達。
でも、彼らは鍛え上げられた戦闘能力を利用して犯人を捕まえてくる。
不良のような見た目というより隠密機関みたいな感じ?
…いわば、武闘派。ってなわけで、俺らは重宝してる。
それに、政先輩の恋人と言われてる人もその中に属してるし悪く言われてプッチーンと切れた。
副会長は前にも先輩をキレさせたことがある。もう、レッドカードの退場でもいいんじゃね?ってくらいに。
首絞めて持ち上げちゃったときは慌てて止めた。

愁汰は事の成り行きによっては止めるはずだけど…。まだ止めそうにない。

「………野…蛮人と」

「何とか言ったらどうだ?あ?
俺相手には言えねぇくせに、偉そうな口叩いてんじゃねぇよ。
前にも一度忠告したはずだ、てめぇの身をてめぇで守ってからそう言え。
あいつらからの警護対象にあんたは入ってる事を忘れんじゃねぇ」

まるっきり、脅しだ。
まあ、保護下にあるのにきゃんきゃん吠えちゃう子犬みたいなものだろうけど。
副会長がまた何かを言い出したらさすがに手が出そう。

「せーんぱい。政先輩、手出したら負けですのでその辺にしません?
相手は一応、無抵抗な人間ですし。とりあえず、クールダウンしてください」

トントンと背を叩くとギロリと睨まれた。本物仕込みは違うね。本当にさー。
でも、そんな先輩は怖くない。
理由?そんなの慣れに決まってる。
…ガタン、と愁汰が立ち上がった。

「副会長、ごめんなさいってしてくださいねー。
花瓶の弁償は折半で。
えーと、仮眠室、借りるけどいい?愁汰」

まるで聞かん坊な幼児でもあやす様な言い方に副会長がヒステリックに喚いたのを、聡が横からぬっと現れて沈めた。
それを横目に見ながらよいしょ、と。
先輩の背を押し仮眠室に押し込んだ。先輩、ごめんねー。悪気はないよ。

「ああ、雅、目一杯暴れてもらって構わないと伝えてくれ」

「だってさー!先輩聞こえたー?」

それを契機に壁を殴る鈍い音が聞こえはじめた。
音が静まったし、恋人さんにも連絡しておく。実際に会ったことはないけどメル友だ。
それと、メール送信と同時に聞こえたのは廊下に続く扉をドンドンと叩く音。

一難去ってまた一難。

『いーつきー!!!!遊びに来たぞー!なんで、これ開かないんだ!?』

ガチャガチャと無理くり扉を開けようとする音が聞こえる。

「相川くん、田淵くん。これってさ、あの転校生かな?」

「ええ。彼が来たことでクラスには不和が生じていますし」

相川くんが額を押さえた「出来れば、会いたくないのですが」と呟いた。

『…だ、駄目だよ!ここは一般生徒の立ち入りは!柚木くん!』

それから、別の声も聞こえた。

「また晃の事連れまわしてんだな、あの腐れ野郎。
…先輩、すみません。迷惑かけて」

下衆い言葉が爽やかくんの言葉から小さく漏れたのは、聞かなかったことにして笑って流した。

『なんで、そんな事言うんだよ!?お前は俺の友達なんだぞ!斎ってばー!いないのかー!』

「…梓!少し待っていてください」

さっきまで、ヒステリックに喚いていた副会長が嬉々とした声を上げ扉を開けた。
まるで、王子様を気取った動作に俺が噴出したのに気付いた奴はいなかった。
俺は聡に引っ張られて、愁汰の方へと連れられて行く。
そしたら、愁汰と聡に机の下に隠れているように言われて身を隠した。
実の方を向くと人差し指を唇に近づけて、「しーっ」とだけ口元が動いたのが分かった。



















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あきゅろす。
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