Hello, Say Good Bye
>>04
繋いだ手が離されるそのまえに、
…愁汰のごつごつとしたその手を小さく握って僅かな幸せに浸る。
ふふふー、と笑って愁汰の横顔を見たらほんの少しだけ目が合いふっと笑った。
ああ、やっぱり俺には愁汰がいなきゃだめだ。
あと、少し。もう、少し。あと一秒。
憂鬱な空間にダイブするのは、今の俺には勇気がいるから。
「入るか」
愁汰の声を合図に、するりと俺らの手が外される。
空いた右手にぽっかり穴が出来た気がした。
それが妙に気持ち悪くて、右手をポケットへと隠した。
ついでに、左手で"いつでも連絡できるように"ケータイを弄るフリをする。
これなら、視線を合わせずに済むしね。…我ながら得策。
「俺は、いつでもいいよー?さあ、れっつごー」
「嘘つけ」
「んえぇ、嘘吐いてねぇし…」
頭をぐしゃりと撫でられ、驚いた。
いつもなら、俺の方を見ないじゃん。
俺の瞳は、揺れているだろうか?
「癖、出てんだよ」
「癖…?」
右手と左手に視線を移して首を傾げた。
意識してないからどっちか分かんねぇや…。
「…ケータイと右手、どっちも。人の視線が気になると背丸めんのもな」
「あはは…」
両方だったかぁ…。しかも、別なのもプラスされてる。
呆けていると笑われた。
「よく見てるねぇ」
「当たり前だろ」
優しい温厚な目から、厳しく冷静な目へと愁汰の瞳がたった一度の瞬きで変わる。
王者の風格ってやつかな?今の愁汰は、俺が知ってるのとは別人。
今までとは違うから。
今まで以上に、学園に嵐が吹き荒れている。
いつもの温厚な姿じゃ駄目だからかもしれない。
これ以上の事態の悪化は、学園の元締めたる俺たちの行動で決まるのだろう。
愁汰の目を見ているとなぜだかそう思ってしまった。
そう自覚すると、いとも簡単に背筋が針金でも入ったみたいにぴーんと伸びきった。
前委員長と政先輩に立ち振る舞いについて扱かれた名残もあるけど、
多分、あとは俺の自覚の問題だったのかもしれないや。
「…今からは生徒会長と風紀委員長だ。いいな?自覚しとけ」
ずしりと重みのある言葉が肩に伸し掛かったはずなのに、
気持ちは落ち着いている。
くすりと、少しだけ愁汰の表情が緩んだ。
「当然でしょ?」
一呼吸置いて、愁汰の顔を見つめ吐き出した言葉は軽い。
愁汰の横にいる俺は最強だ。
だって、こんなにも心強い味方なんていねぇもん。
ぞくぞくと興奮が背中を走る感覚がした。
「行くか」
「さっきから、言ってんじゃん。俺はいつでもいいよーって」
それに笑いかけ再度頷いて、二人同時に食堂の扉を開いた。
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