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8.シリウス


最初に出会ったのはコパートメント。
友人となったあいつの幼馴染だと言った。

俺がブラック家で、純血主義じゃない。
スリザリンではなくグリフィンドールを選ぶと話したら、

「いいんじゃない」

彼女はたった一言を呟いた。
それだけの、その言葉は俺の自信になった。


名前・苗字


小さめの背丈と動くたび揺れる細く長い髪。
白い肌と人目を惹く容姿。

…話してみて分かったのは、
頭の中にぎっしりと詰め込まれた知性。

無表情なせいで敬遠されがだ。と、あいつは言った。
けれど、芯は強く友達想いで思慮深さがある。と、俺は思った。



「名前!」

「よっ、名前」

二人で話しかければ一目瞭然。
彼女のブラウンの瞳には、あいつしか映らない。

「ジェームズ、シリウス。
そんなに慌ててたら、いい男が台無し。
そういえば、クディッチの試合はいつあるの?」

「こいつに校内を連れまわされてんだ」

「そんな事より、赤毛の女の子を見なかった?」

『そんな事』と一蹴された時、
あいつを見つめていた名前の、
穏やかな瞳が悲しみで揺れた。

「……エバンズの事?あの子なら中庭じゃない?
シリウスもジェームズの我侭に付き合ってないでガールフレンド達の相手でもしてていいのに」

「そうか!恩に着るよ、名前!」

「俺は別にガールフレンド"達"なんていねぇよ、またな」

「どういたしまして。
ジェームズ、あの子に頬叩かれないようにね。
手当てするのは面倒だから」

表向きだけ笑顔を貼り付けて、笑った姿は痛々しかった。

辛いときに笑顔でいる事が癖だ。
そう気づいたのは、三年の秋だった。

彼女の秘密を知ったのは四年の春だ。
彼女は物置に閉じ込められていた。
…杖を奪われて。

「内緒よ、パッドフット」

「あぁ、けど、言えよ。俺らが守る」

「俺じゃないんだ」

「いつだって俺らは味方ってな。
俺個人だと、面倒な事が増えるだけだ」

「でも、私は彼に守られるほどか弱くないよ。
だって、彼の眼中に私はいないのよ?
彼女を守っておけばいいじゃない」

「そうだろうな。あいつの目は、エバンスに向いてる」

「私はエバンスに嫌われてる。
きっと、グリフィンドールなのに闇の魔術に傾倒してると思ってるのよ」

「お前はスニベルスとは違うだろ」

「彼に図書室でよく会うの」

「あいつは危ないんだぞ!」

「危なくない。あんた達の尻拭いをしてるの。
彼にお勧めの本を提供して、ね」

「あいつは、闇側の人間だ!」

「彼女に近づくと彼女が逃げて、彼もそれを追う。
何をしたんだって責められるなんて耐えられない。
なんで、ああも熱血漢なのかな。
ただでさえ、不仲説流されて女の子の友達いないのにやってられないわ」

綺麗に整えられた眉は下がり、悲しみに暮れている。
遠く視線の先に見えたのはジェームズとエバンス。
ジェームズは、追いかけて声を掛けて叱責を受けてる様だった。

「名前が弱音吐くなんて珍しいな」

「いつもは黙っておすまし人形だもの」

「女子が言ってたな」

「この前はムーニーに助けられた。
ワームテールは女の子が怖くて逃げちゃうの。
というか、逃がした…」

「なぁ、俺にしとくんじゃ駄目なのか?」

「シリウスのファンに殺されるかもね」

茶化す時に、肩を竦める仕草が好きだった。

「今だって、ジェームズのファンに殺されかけてるだろ」

「それも内緒にしておいてよね。
そうそう、告げ口したらミンチにするから。
それに、あいつってば正義感強いもの」

「今日だって見つからなかったら、三日間は行方不明だったぞ」

「うるさいわね。犬っころは黙ってなさい。
吼えたら足縛りの魔法をかけて女の子達に差し出してあげる」

俺と話すときは、悪戯仕掛け人らしいあいつの笑顔しか見れないのに。


「シリウス。
ジェームズとリリーが付き合ったって、本当?」

「…あぁ」

「そっか。よかった」

七年生になった時、彼女が泣いたのを初めて見た。
厳密に言えば、夜中に抜け出してどこかで隠れて泣いていた。
最初は談話室。
次は天文台。
それからは、同じ場所だった。

「そう思うならなんで泣いてんだ」

「…っこれ…は、私の意志じゃない」

「そうだな」

そして、今度は俺の腕の中にいた。
腕の中の名前は肩を震わせて、いつもとは違った。

…見てられなかった。



泣かせるのも、笑わせるのも、
喜ばせるのも、悲しませるのも、全てあいつ。
あいつじゃなきゃ出来なかった。

俺の親友は、あいつ。あいつの親友は、俺。
彼女の幼馴染は、あいつ。あいつの幼馴染は、彼女。

肩を並べて歩き、信頼してきた。

あいつは自分の愛する者を守って死んだ。

彼女は今だって泣いてる。
嘆き悲しみ、打ちひしがれている。
声を押し殺して、部屋で蹲って。


「名前」

「今は放っておく約束でしょ?」

「っ悪い」

「…いいの。彼らの『秘密の守人』は誰だったの?」

「…ピーターだ。俺はあいつを追い詰めて、捕まえるつもりだった」

「逆に、罪を被せられたって事ね」

「あぁ…。頼む、信じてくれ!」

「信じるわよ…。
だって、私ってば隙だらけで『イカれたブラック』に殺される状況でもあったはずでしょ?
なのに、貴方は殺さなかった。
というか、詰めが甘いわね。
狡賢い鼠を逃がしちゃうなんて」

「俺がお前を殺せるはずがない。
殺すとしたらピーターだろう。
俺の詰めが甘かったのも認める
だからって俺に攻撃してくんなよ…」

「私は、魔法省に証言をしてから身を隠すわ…。
生憎、アイツらなんかに手は出せない純血だもの」

「そうだな。でも、どうやって証言するんだ?」

「私は唯一の秘密を知る人ですってね。
だって、殺された彼らとも殺人者の罪を着せられたあなたとも親友なのは私かムーニーだけよ?
多分、ムーニーはあなたをスパイだと疑っているの。
引っ付き虫のピーターじゃなくて、ね」


ニッコリと笑った彼女は綺麗だった。
復讐に燃える瞳は爛々としていた。












きみを守るのも傷つけるのも他の誰かで


…俺じゃない。







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