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恋の話(シリウス)










「追われるというのは、あまり好みじゃないんだ」

そういって目前にいるひげを生やした男は煙草を吹かして呟いた。
けだるそうに、まるでこっちを見やしない。

「…だからと言って、追うのもあまり好かない」

「じゃあ、何があなたのお気に召すんです?」

彼が私の淹れた紅茶を一口啜る。
余裕綽々なその態度が気に食わなくて苛立った声が出てしまったと、自分でも分かった。
ああ、短気な自分が恥ずかしくて堪らない。
彼が相手をするのに相応しいのは、余裕のある貴婦人とかだろう。
私よりもずっと年上の女の人。
甘い香水の香りに包まれて居る様な。そんな人。

「顔が赤いよ、お嬢さん」

くすりと微笑まれた。それだけで跳ね上がる心臓に嘘はつけなかった。
彼は私を名前で呼ばない。

「なら、日陰の恋とでも?ただ見つめるだけの…」

「君もそういった類の恋をしてるのかい?」

「ええ、酷く自分でも不毛な恋です」










―…すれ違いの恋。












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