○○恐怖症(シリウス)
彼と知り合ったのはたまたまだった。
用事があって普段はレポートを書く時にしか使わない図書館へ行った時に、
悩める背中をした幼馴染に話しかけたのがきっかけだった。
いつもはスルーするのに、何故あの時だけ話しかけたのかは分からない。
「…ジェームズ誰かに贈り物?」
「…!君から話しかけてくるなんて今日は珍しい事があるもんだね。
ああ、手強い相手への贈り物さ。どんなのがいいと思う?」
「…そうなの?…薔薇の花とかは…、どう?
……本数によって意味が変わってとっても素敵なの」
「いい事を聞いた!それで、それはどんなのなんだい?」
「…1輪は、"一目惚れ"とか。"最愛"を意味する11輪とか。
プロポーズに贈るなら108本の薔薇とかね。結婚して下さいって意味があるから。
…まあ、まだこれは必要ないかもだけど…」
久しぶりに話したせいか口数が増えてしまった。
それが分かっている様でジェームズもくすくすと笑う。
「変わらないね、君は」
「まだ子供っぽいって言いたいの?」
「まあ、そんな所さ」
「一人で何の話してるんだ、ジェームズ?…っと、なんだ人がいたのか」
最初はこの小さな声のせいで幼馴染が誤解されてしまったと焦った。
それも束の間でその幼馴染であるジェームズは、彼に私を私に彼を、さらりと紹介して満面の笑み。
「ああ、シリウス。彼女は名前。
名前、僕の親友のシリウスだ」
それに、なぜだか安心したのだ。多分。
「…初めまして……え…えっと、よろしく?」
「シリウス・ブラックだ。よろしく。
それで、彼女とお前はどういう関係なんだ?」
ジロジロと不躾な視線が投げ掛けられて、
どこか高圧的なそれにほんの少しだけムカついた。
でも、ムカつくだけで嫌な感じはしないし鳥肌も立たなかったから不思議だ。
「彼女はハッフルパフに所属してる僕の幼馴染さ。
廊下ではよくすれ違ってたよ。……それよりも、だ。
僕が独りで話をしてたと君は思ったのかい!?」
「まあ、最近のお前の頭の具合を考えればな。
幼馴染?…そんなの初耳だぞ、ジェームズ。
しかも、なんですれ違ってたはずなのに今更発覚するんだよ」
「言ってなかったかい?…まあ、事情があるんだ。色々とね」
「一言もな。…事情?」
「それは後々。あ、今、名前が説明してもいいけど」
ずいっと彼の前に差し出され、ジェームズの方に逸らされていた視線が此方へ舞い戻る。
グレーの瞳と視線がかち合い、ふいっと逸らしてしまった。
「なぁ、それって聞いていいやつなのか?」
「隠してる訳じゃないから…。
…視線恐怖症ってやつ。…まだ慣れた方かな、これでも」
「入学ん時はどうしたんだよ」
「一人だけ別室で一応、帽子は被って、そそくさと席に着いてたから」
「まじかよ」
「まじです」
その返しにシリウスが笑うと、何故かキメ顔で特訓だ!云々を言われ連れ出された。
それが、5年生の時。
今は卒業を控えた7年生。
「ねぇ、覚えてる?」
「何が?」
「初対面の時の事」
「ああ、声が小さい奴だって」
「なにそれ。今はもう普通でしょ?」
「まあな。特訓してよかっただろ?」
「まあね。あなたと出会えたからあの時の自分の気まぐれと幼馴染に感謝かな…」
「よくぼっちでいる事もなくなったからな?」
「う˝…」
「気にしてたっけか?」
「あなたにそれを言われると痛いなぁって」
「は?」
「なんでもない。あと、近い…」
「恋人なんだ、別に近くたって誰も文句は言わねぇだろ?」
甘い甘い空気を漂わせるその瞳から向けられる視線。
それが、怖くないのは愛しいからかもしれない。
「馬鹿じゃないの」
あれを克服したのは、シリウスとジェームズ達という人気者と過ごす事での、
荒療治というかショック療法のおかげだ。
視線が集まる事で、何度も倒れかけたし…。
まだ少しだけ残っているのか、不特定多数に不意打ちで見られると発作が起こったりもするのは内緒の話だ。
早々、もうないだろうから。
「見たいやつには見せておけばいい。
どうせ、明日明後日には卒業。そうだろう?」
「あなたの考えにはついてけないけど、大好きよ」
笑って言えば、じわじわと耳が赤くなっていく。
相手の耳も自分の耳も。
なんだか気恥ずかしくなって、隣から逃げ出すと追いかけられる。
「おいこら!!!言い逃げすんじゃねぇ!!!」
「…きゃー!!!!」
ドタバタと駆けまわっているとマクゴナガル先生に叱られたりするのも日常茶飯事になってしまった。
けど、捕まるともっと厄介になってしまうから逃げなきゃいけない。
今日も、今日とて、その腕にがっしりと掴まれて捕まえられた。
「好きだ、名前」
囁かれるのは、愛の言葉。
バカップルの馴れ初め(?)と日常。
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