伊橋さまより!

「三橋〜。花見いこーぜ。」
『ヤダ』
 受話器越しの開口一番に暫く伊藤の思考が停止する。
 返ってきた言葉を頭の中で反復すると、情けなく上擦った声が漏れた。
「エッ」
 花見と言えば団子、花見と言えば宴会、花見と言えばちょっとしたピクニック気分で出掛ける絶好の機会だというのに、何故か音速で断られてしまった伊藤は目を丸くする。
「な、なんでだョ!」
『オメー知らねーのか!桜の木の下ってなァな…』
 その先を言いづらそうにしているのか、受話器越しでも強張った顔をした三橋が目に浮かぶ。
 何を言ってるんだ高校生にもなって…。なんて思いながら、伊藤はため息をひとつ零しながら続きであろう言葉を紡いだ。
「…死体が埋まってるとか言うんじゃねーだろーな…」
『知ってるんじゃねーか!!そんなもんに俺様を誘うナ!!』
「バカ言うな!学校にも山ほど桜くらいあんだろーが!」
『……!』
 言葉に詰まった三橋に、伊藤は呆れ顔で笑う。勿論、対面していないから伝わらない顔だけど。
 凡そ色々と考えを巡らせているであろう三橋に、一先ず間を置いてみる。
 三橋はというと、何気無しに聞いてしまった春一番の恐怖話に頭がいっぱいだった。
  『桜の木の下にはね、死体が埋まってるんだよ。だから本当は白い桜の花が、ピンク色になってるの。あれは人の血を…』
 ブルブルと体を震わせ、そんなものが学校に沢山あるというなら、学校には沢山の死体が埋まっているということなのかと身を縮こませた。
 暫くしても黙っている三橋に、伊藤は大袈裟なくらいのため息をつく。
「はぁああぁあ…」
『…なんだテメー。喧嘩売ってんのか!』
 あからさまなため息にムッとした三橋は恐怖で満たされていた思考を絶つ。
 見る見るうちに八つ当たりに近い怒りが込み上がり、自然と受話器をぎゅっと握った。
「売ってねーヨ…。…母さんが団子作ってくれるって言ってるしよ。いこーぜ?明日休みだし」
 団子。
 この言葉にピクリと反応した三橋の思考は見る間に団子で埋め尽くされてゆく。
 伊藤の母が作る料理を思い出すと、絶品に違いない団子を思い浮かべて腹を摩った。
『…団子いっぱい食わしてくれんなら考えてやらん事もない』
 しかしそう簡単に恐怖を切り離せるわけが無く、三橋はもったいぶった返事をする。
 伊藤もいい加減呆れを通り越しそうな相棒の怖がりっぷりに頭をかいた。
「…だーかーらー、死体なんて埋まってねーっつの。大体行くのは昼くらいだぞ」
『死体に昼も夜も関係ねーだろーが!』
「ずっと傍にいてやっから怖くねーだろ」
 間髪入れずに返ってきた言葉に、三橋の思考が一瞬止まる。
『……ッ』
 わなわなと震える手、熱くなってくる頬やらに形容し難い感情。
 落としそうになった受話器を再びぎゅっと握ると、喉が張り裂けんばかりの大きな声をあげた。
『バカッパ!!!』
 ガチャン
 耳を劈くような声量と、無機質で乱暴な音に目を瞑る。
「エッ…」
 ツーツー…。虚しく響く途切れた音に、そっと受話器を置いた。
 何故怒られたのか、何故電話を切られたのか、一瞬理解出来なかった思考がどんどん答えを導き出していく。
 熱を持つ頬をかくと、恥ずかしさに眉を下げた。
「……、俺今スゲー恥ずかしい事…言った…?」
 口元を押さえると、このもどかしく恥ずかしい気持ちをどう抑えようか必死に頭を捻った。


 翌日。
 三橋と花見に行く事を聞いていた母から両手に大きな袋を渡された。
 中には大量の団子が入ったプラスチックの入れ物。
 「育ち盛りの男の子だものね」ニコリ笑いかけられ、苦く気恥ずかしいような笑みを返した。
 何時に行くかも伝えていなかったが、どの道行ってくれるかどうかも分からない。
 団子も沢山あると凶器だな。と、両手にかかる重量に苦く笑った。
 三橋の家まで来ると、深く深呼吸をして扉に手をかける。
「こんにちはー…って、あれ?」
 ガラガラと戸を滑らせるとそこには、靴を履いた足を放り出し玄関に寝そべる三橋がいた。
「おせーよカッパ!」
「エッ…」
 三橋は起き上がるなり伊藤を睨み付ける。対する伊藤は、まさかそんな風に待たれているとは思いもよらず。
 一瞬呆けた後に見る見る緩む頬を隠せずにいた。
「ニヤニヤすんな!」
 何か不愉快な事を考えられていると思った三橋が手元にあったスリッパを投げつける。
 それは見事に伊藤の顔面にヒットし、情けない声があがった。
「ナ、ナニすんだ!!」
「変なツラしよってからに…。あ、元々か。」
 言い終わるが早いか三橋は立ち上がると、伊藤より先に家を出る。
 いつも通り後ろを追いかける形になった伊藤は、それでもニヤニヤと頬を緩ませていた。

 どうやらデートが楽しみだったのは、伊藤だけではなさそうだ。
 桜舞い散る公園でのささやかなピクニックに思いを馳せた。













行く前の話になってしまいましたが…!お誕生日おめでとうございました+゚*。:゚+(人*´∀`)+゚:。*゚+.
伊橋 愛

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私の誕生日に伊橋さまから頂いたイトミツSS!!!!
お花見イトミツのリクを快く引き受けてくださいましたっ・・・!!!!
もう2828が止まらなくてドキドキも止まらない!!!!
伊橋さま、素敵な誕生日プレゼントをありがとうございました!!!!


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