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トラウマ
01


テニスサークルに入ったのは、単純に中学から始めたテニスを続けたかったから。
テニスサークルは飲みサーも多いと聞いていたから、いくつかのサークルを回ったり人に聞いたりして、比較的歴史のある、きちんと練習や大会のあるこのサークルに入った。

「直希、今日バイト?」
「いや、今日はないよ」

同じような理由でこのサークルを選んだ人は多くて、サークルを通じて気の合う仲間も出来た。
今は後期の授業が始まったばかりだが、ようやくサークルに自分の居場所が出来たような気がしている。

「俺バイトだから、4限終わったらすぐ帰るわ」
「おー」

1限の必修の授業終わり。
隣の席に座っている丈(じょう)はサークルの新歓で仲良くなって学科も同じなので、比較的一緒にいる。

「溜まり場行くか」
「だな」

昼休みや空き時間は溜まり場に行くことが多い。
今日は2限が空きなので、昼休みまで溜まり場で過ごそうと丈と連れ立って溜まり場がある食堂に向かった。




「お、ここ座れよ」

俺たちの姿を見つけた先輩たちが声を掛けてくれる。

「どーも」
「次空き?」
「はい。先輩もですか?」
「俺は3限からなんだけど暇だから来た」

隣に座っている3年のあさひ先輩は、このサークルに勧誘してくれた人で、サークルに加入後も色々と世話を焼いてくれる。
あさひ先輩をはじめ、このサークルの先輩たちはノリが良くてふざけることも多いけど、やるべきことはきちんとやるような、いわゆるONとOFFの切り替えがしっかりしている人が多くて接しやすい。
大学はサークル選びが肝心だと聞いていたけど、恐らく俺は成功した側だと思う。

「直希、今日の夜渉先輩んちでゲームやろうって話なんだけど、お前も来ない?」
「え、」

後ろのテーブルに座っていた同級生の辻が振り向いて声を掛けてきた。
自然こちらも体を横にずらして話を聞く羽目になる。

「先輩の家で…」
「そう、ゲームの話してたら盛り上がっちゃってさ」
「ごめん、今日バイトだわ」

瞬時に嘘を吐く。
周りに聞かれたくないから声のトーンが自然落ちていた。
視線を感じるけど、それは気のせいかもしれない。

「マジかよー」
「直希来れないの?」

後ろのテーブルの向こう側に座った渉先輩が聞いてくる。

「あ、はい、すいません」
「別に謝らなくていいよ。急だったしね。またやるから来られるときにおいで」

人好きのする笑顔で返される。
この笑顔に同級生の女子たちは当然のことながら夢中になっているし、世話好きな性格からか男子でも彼を慕っている奴は多い。

「あ、はい」

そう言ってまた渉先輩たちがいる方に背を向けて座り直す。
すると、俺の正面に座っていた丈と目が合った。
何となく腑に落ちない顔をしている。

「直希、今日バイトないって言ってなかった?」

余計なことを…、と思った。

「さっき代わり頼まれたんだよ」
「なるほど」

それをまた嘘を重ねて誤魔化した。




大学生になって早半年。
大学生活を満喫しているというのは嘘じゃない。
毎日充実している。
この大学に入学して、このサークルに入って良かったと思っている。


二度と会うはずのない、会いたくもなかった人が近くにいるという事実を踏まえても、その思いは変わらない。


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