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トラウマ
18

なんで先輩が、両親が離婚する前の「望月」っていう名字を知っているんだ。
そんなの答えは一つしかないのに、それに気付きたくなくて、自分を必死に誤魔化す。
まさか、そんなわけない。

「何その反応。俺が気付いてないとでも思ってたの?」

先輩が俺の顔を楽しそうに眺めながら聞いてくる。

「あ、いや…」

今何が起こっているのかすら良く理解できない。
喉が詰まって、言葉が上手く出ない。

「なんで‥…」

俺のことなんて、てっきり忘れてると思っていた。
だって、現に先輩は俺のことなんて知らない素振りで接してきたじゃないか。

「サークルで初めて顔合わせたときに『初めまして』って挨拶されたからね。知らないふりした方が良いのかと思って合わせただけだよ」

先輩が俺の心の声を読んでいるかのように真相を明かしてくる。

「…‥そんな、の」

混乱して、頭が働かない。

「どっかのタイミングで話せたらと思ってたけど、その後もあからさまに避けられちゃったからね」
「‥………」

ダメだ。
とにかく今は、これ以上ここにいちゃダメだ。
一刻も早く、逃げなければ。

震える足で一歩、二歩と後退りを始めた俺を、

「まだ話は終わってないよ」

またしても先輩は逃がしてくれない。
先輩は俺の手首を掴んだまま一歩近づいてきて、俯く俺の顔を覗き込むようにして視線を合わせてくる。

「…ねえ、望月は男が好きなんだよね?」
「っ!」

あまりにも直球すぎる質問に、全身がカアッと熱を帯びるのが分かった。
こんな風に無遠慮に聞かれたことがないから、どう反応すればいいのか分からない。
嫌な汗がじわりと体中から滲み出る。

「もし今相手に困ってるなら、俺が相手してあげてもいいよ」
「‥………」

耳を疑った。
今、何て言った‥…?

「昨日のヤケ酒だって、それが原因なんじゃないの?」
「っ!」
「ほら、性的マイノリティーの人って、相手を探すのも一苦労なんでしょ?俺、どっちもイケる口だからさ」

そう言って、首を傾げて微笑んでくるその顔は、目の前にあるはずなのに、俺はどこか遠い目で見ていた。



───ああ、この人は。
俺が好きになったあの人と、同じ人みたいだ。


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あきゅろす。
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