トラウマ 14 飲み会の集合場所に行けば先輩の姿があった。 だから何ということはない。 先輩の動向を気にしなくていい飲み会というのは、驚くほど気が楽だ。 「今日来たんだ。てっきり来ないかと思ってた」 居酒屋に着くと、いつの間にかすぐ後ろに先輩がいて、そのまま隣に座る形になった。 今までは先輩から遠くの席を死守していたので、背後を取られるなんていう失態はなかった。 今までどれだけ気を張っていたのかがよく分かる。 「…ああ、はい」 「何その気のない返事」 「まあ、気はないんで」 「ほんと冷たいね」 こんなやりとりをしていれば問題ない。 先輩の方も何を言っても特に気にした様子もなく、笑って済ませている。 「直希は何飲む?コーラ?」 「いや、今日は飲みます」 「え、なんで。何かあったの」 「何もないですよ」 先輩が探るような目を向けてくる。 俺はそれを何食わぬ顔でやり過ごす。 失恋したからヤケ酒したいだなんて正直に言おうものなら、また根掘り葉掘り聞きたがるだろう。 そんなの御免だ。 「未成年者の飲酒は法律で禁止されています」 冗談とも本気とも取れないトーンで先輩が言った。 飲ませない気か。 真面目かよ。 「じゃあいいです。他の先輩から貰うんで」 そう言って俺は立ち上がった。 ちょっとムッとした言い方になってしまったかもしれないけど、変に先輩ぶる向こうが悪いんだ。 「───き、直希、」 遠くで、ざわざわと賑やかな声が聞こえる。 誰かが俺の体を揺すった。 「おい誰だよ直希に飲ませたの」 あさひ先輩の声だ。 どうやら俺は相当酔っ払っているらしい。 確かに体が動かない。 目が開かない。 でも先輩。 俺は飲まされたわけじゃなくて自分から飲んだんですよ。 俺はなんでこんなに飲んだんだっけ。 よく覚えてないし、思い出さなくていい気もする。 そんな重要なことじゃない。 「おい、直希。立てるか?帰るぞ」 無理、立てない。 もうここから動けない。 「いいよ、俺が連れてく。お前は二次会行けよ」 あさひ先輩とは別の声が聞こえる。 「え、いいのか」 「ああ、帰る方向一緒だし」 「悪いな、助かる」 誰だっけ、この声。 思い出せない。 もう何も、考えたくない───。 [*前へ][次へ#] [戻る] |