トラウマ
13
突如として訪れた失恋。
それはまるで鈍器で頭を殴られたような衝撃、といったような類のものではなくて、ついに夢から覚めたというか、胸のつかえが取れたというか、うまく言えないけどそんな感じのものだった。
ああ、終わったんだな、って。
だから思ったより冷静に事実を受け入れられたし、幸太朗と別れるまでわりと普通に過ごすことができた。
じゃあ辛くないのかと言われればもちろんそんなことはなくて。
幸太朗を好きだった約2年間、幸太朗は俺のものにならない代わりに誰のものにもならなくて、それは間違いなくかけがえのない幸せな日々を俺に与えてくれた。
そんな日々が終わりを迎えたのだ。
自分が幸太朗と付き合えないのは当然だとしても、幸太朗がついに誰か1人のものになってしまったのだ。
───幸太朗。
俺、お前のこと好きだったんだ。
正直今も好きなんだけど。
でも俺はお前の友だちでいるって決めてたから、彼女が出来たからって妬んだりしない。
これから先彼女との話をちゃんと友だちの立場で聞けるように、今度こそ本当の友だちになるんだ。
失いたくない、大切な人だから。
幸太朗に彼女が出来たのが大学生になってからで良かった。
高校時代だったら、自分を誤魔化しながら毎日幸太朗と過ごさなきゃならなかった。
今はこうやって、幸太朗がいないところで少しずつ気持ちの整理が出来る。
次会うときはまた笑顔でいられるように。
誰にも気づかれないまま、失恋の傷を静かに癒しておくよ───。
「なあ、直希、お前今日飲み会来れない?」
「え?」
数日の間、虚しく日々を過ごしていたある日の2限終わり、溜まり場に着くなりあさひ先輩に聞かれる。
「急に1人来れなくなってさ。キャンセルできないから誰か来れるならと思って」
「そうなんですか」
「行こうぜ直希」
既に出席予定の丈が重ねて誘ってくる。
今日サークルの男だけで飲み会があるのは知っていたし、他に予定もなかったが、先輩との絡みを避けるために不参加にしていた。
「いいですよ、行けます」
「お、マジか。サンキュー!」
不参加の返事をしたときに比べて、先輩への拒否反応は随分薄まった。
付かず離れず、そのスタンスでいればいい。
そんなことより正直飲みたかった。
幸太朗のことを考えなくていい時間が欲しかった。
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