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トラウマ
11

今の俺と6年前の俺は、共通点が少なくなきゃいけない。
むしろ俺の話なんかいい。
先輩の話をしてくれればいい。
同級生の女子たちも、先輩の話でいつも盛り上がっている。
何だっけ、女子たちの間でよく話題に上がるのは。
───ああ、そうだ。

「…先輩は、彼女とかいるんですか?」

彼女がいるかどうかしきりに気にしていた。
先輩はあまり自分のことを話さないとか、恋バナは聞いたことがないとか、そんなことを嘆いていた。
そんなに気になるなら自分から聞けばいいのに。

「俺?いないよ。しばらくいないなあ」
「しばらくって?」
「うーんと…、半年?とかかな。留学から帰ってきたら何となくね」
「そうなんですね」

明日にでも女子たちに教えてやろう。
先輩はフリーだから、今が狙い目だって。
そうして女子たちから先輩にアタックしてもらって、先輩が俺のことなんか気にかけなくなればいい。

「直希は?いるの?」
「あー、俺は…、どうですかね」

ふと、頭を過ぎった人がいた。

「お、なんでそこで濁すんだよ。怪しーなあ」
「いや、そういうんじゃなくて、別に付き合ってるとかではないんですけど」
「あー、片想い?好きな奴いるんだ」

先輩がニヤリと笑んで続きを促す。
なんだかすごい楽しそうだ。

「まあ、高校の同級生なんで、今は中々会えないんですけどね」
「へー、うまくいきそうなの?」
「どうですかね。…もう、俺の話はいいですよ」
「えー、気になるじゃん。先輩としてアドバイスもするし」
「大丈夫です。ほら、食べましょう」

そう言って今度は俺が肉料理を取り分け始めた。


なんか変な感じだ。
中学のときトラウマになるほど好きになった人に、今現在好きな人の話をするなんて。


その後も先輩は俺の恋バナをやたら聞きたがったけど、俺がそれ以上話さないのが分かるとようやく諦めてくれた。
付き合っているならまだしも、先輩が知りもしない人に片想いしてる話なんか、一体何が面白いのだろう。

「そうだ、来週あさひ達と飲むんだけど来る?」
「行かないですよ」
「なんで。俺がいるから?」
「…逆に自意識過剰ですね」

もう、これでいいのかもしれない。
変に距離を置いても先輩の存在を意識しすぎて疲れるだけだ。
変に勘ぐられたら面倒臭い。
それならいっそ俺は先輩が嫌いだということを周知の事実にしてしまおう。
そしてこんな風に下らないやりとりをして済むのならそれでいい。
流石に2人でご飯というのは避けたいけど。
付かず離れずという言葉もある。
あからさまに離れなければ、近づくこともないのだ。


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