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トラウマ
プロローグ


好きな人がいた。
部活の先輩で、かっこよくて、優しくて、笑顔が眩しくて。

親の事情で引っ越すことが決まったとき、最初に思ったことは先輩と離れてしまうということで。
それは当時の俺にとって、突然身に降りかかってきた災難そのものだった。
親の庇護のもとで生活している以上、どんなに理不尽だと訴えても転校という事実は覆らない。

転校するしかないと悟ったとき。
ありきたりかもしれないけど、離れ離れになるくらいなら最後に自分の想いを伝えようと決心した。
先輩なら、気持ちを受け入れてくれないとしても、きっとあの笑顔で、俺の想いを優しく包み込んでくれるんじゃないかって、そんな淡い期待があったから。

転校を間近に控えたある日、俺は人生最大級の勇気を振り絞って、先輩に思いの丈を伝えた。

そしたら先輩は、驚いた顔こそしたものの、そこに嫌悪感は見当たらなかった。
俺はそれだけで舞い上がった。

『あのっ…、へ、返事とかいいんで。聞いてくれてありがとうございました!』

そのまま立ち去ろうとした俺を、

『あ、待って!』

そう言って呼び止めてくれて、

『嬉しいよ、そんな風に思っててくれたなんて…。その…、ありがとう』

俺が大好きだった笑顔でお礼まで言ってくれた。
天にも昇る心地になった俺は、どんな顔をしていいか分からなくて、その場から逃げるように駆けていったっけ───。


今思い出しても恥ずかしくなるほど健気で真っ直ぐで、ただひたすらに純粋だった俺‥…。
まだ13歳だった。


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