短編小説 Merry merry christmas. 他人事、恋人行事。 メリーメリークリスマス。 つまんないね、一人ぼっちじゃ。 見渡せば、クリスマスカラーに染まった街。ああもう、バカばかりで嫌気が指す。 昨日まで自分だってバカなやつと一緒に居たはずなのに、何でまた今日に限って、一人ぼっち。 メリーメリークリスマス。 雪も金も降らない街は、濁った風がびゅうびゅう吹いてる。 吸うと身体中が汚くなる気がして、バカな俺はまだ吸えずにいるよ。 どうしてくれるんだよ。お陰で呼吸困難だ。 くたばれって叫ばれた女が、知らぬ間に消えてた。 と思ったら、次の日新聞やワイドショーに出てやがるときたもんだ。ちくしょう、俺のお気に入りの番組まで出てやがる。 俺好みの可愛くてくりくりした目のアナウンサーが、ぱくぱくと口を動かした。 被害者の名前、ああ、やっぱりあのバカ女の名前と一緒か。 ちよ、ちよ、ちよ。 スズメみたいな名前をしやがって、なんて言うといつも嬉しそうに笑っていたバカ女。 メリーメリークリスマスに、サンタの親父は、どうやらデカいプレゼントをくれたみたいだ。 遺書。 あのバカ女が、俺宛てに書いていた手紙。 『貴方のことが好きでした。だから、貴方の全てを愛していました。今もこれからずっと先も。なのに貴方はそうじゃなかった。貴方の目線の先に私はいなかった。私じゃないことなんて気付いていた筈なのに、どうしてか勘違いをしていたようです。貴方が私を愛している、などと。ですが、貴方の本心を知って、改めて認識して、私は決意しました。死にます。だから、私という重荷が無くなった貴方は、本当に大切な人に、その想いを届けてください。私からの最初で最後のお願いです。ですが、貴方のせいだけで死ぬわけじゃないので、安心してください。前から、生きていることに嫌気が指していたんです。だけど、貴方に会っている時は、その気持ちを忘れさせてくれた。だから、貴方が好きだった。ごめんなさい、最後まで貴方の都合のいい女になれなくて。でもこの手紙で最後。貴方の中から、元々あまり残っていなかった私の存在は、全て真っ白く消えることでしょう。いえ、もういないかもしれない。もし手紙を読んでいる貴方が、私を覚えているなら、私の存在が無くて、何か不自然に思ったなら、もう一度だけ私の名前を読んでください。そして最後に。この手紙は私から貴方への クリスマスプレゼントです』 バカ女は長々とくだらない文章を、自分の靴の下に置いて、死んだらしい。やっぱり、コイツはバカだ。 「坂口?」 「梨本、」 後ろにはお前の推理通り、10年越しに思っている相手がいる。コイツだよ、コイツのことばかり見てたよ。 前に一度見掛けて、それ以来お前と何度も来たこの街。 気付いてたから、念を押すようにもう一度言う。 この街に来たのは、アイツに会うため。お前と出掛けたいなんていう気持ちは、全く無かった。 だけどな、バカ女。 少しだけ、お前が居ない世界が不自然に感じたよ。1秒だけ。 横に居るはずのお前がいない、俺の大嫌いなえくぼを出すお前がいない、バカなお前がいないことに。 だから、メリーメリークリスマス。 バカ女。 つまんねークリスマスプレゼントに、俺からもプレゼントをやるよ。 喜べ、バカ女。 メリーメリークリスマス、 「バカちよ、」 Merry merry christmas. [*back][next#] [戻る] |