キミのトナリ
I
「…ここ…」
「保健室、ボールが頭に当たってお前ぶっ倒れたんだよ。全然起きねぇからマジでビビった。」
そうなんだ。なんか覚えてるようないないような。
良かった、あれが夢で…。
そういえばさっき…初めて僕の名前呼んでくれた!
幸福感でいっぱいの僕に朔弥から今4時間目の授業中だと知らされた。
「授業はいいの?」
「ああ。なんか気になって抜けて来た。」
「心配してくれたの?」
「すげーした。朝も具合悪そうだったし、昨日もあんま元気なかったみてぇだったし。」
ほんの少しでも僕の事を気にしてくれただけでも飛び上がるほどうれしいのに、どうしよう。うれし過ぎてなんだかこっちの方が夢みたい。
「もう少し寝てろよ。俺もう行くから」
「…嫌だ!」
白いベットに寝ていた僕は隣の椅子から立ち上がろうとする朔弥の腕を掴んだ。
「お願い!もう少しだけ側にいて。」
あんなに会いたかった朔弥が目の前にいて、僕の心配までしてくれて…。
もう抑えられるはずがない。
「しょうがねぇな。ちゃんと寝ろよ。」
そう言って椅子に座り直すと、わがままな子供をなだめるように頭をポンポンしてくれる。やっぱり朔弥は優しい。
その優しさにもっと甘えたい。だんだんと欲が出てきてもうひとつお願いしてみる。
「手…握って。」
思ってたよりサラっと口から出た言葉に自分でも驚く。多分無理だろうと思いながら朔弥を見ると「ガキだなー。」なんて言いながらあっさり出した手を握ってくれる。
うわぁー!どっどうしよう。朔弥が握ってくれた。
ドキドキするけどあったかくて、大きくて、なんだかすごく安心する。
「うなされてたけどどんな夢見てたんだ?」
「…父さんの…夢。」
朔弥に握られた手からどんどん優しさが流れ込んでくるみたいで瞼が重くなり始める。
「お前親父に酷い事されてんの?」
「何も…ないよ…。」
それ以上朔弥は聞かなかった。
大好きな人に隣で手を握ってもらうのってこんなに安心出来るのはなんでかな?昨日はあんなに遠くにいたのに今はすぐ近くで触れられる。もう嬉しくて、幸せ過ぎて。
伝えたい…。
朔弥に好きって言いたい。寝不足で、頭打って、幸せ過ぎて頭がおかしくなってるのかもしれないけど、いろいろ考えずに好きって言いたい。
「…さく…や。」
「ん?どうした?」
「…さく…ス…」
無意識に動く唇も睡魔には勝てず、はっきりと想いを伝えられないまま僕は深い眠りに落ちていった。
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