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キミのトナリ
D
いきなりそんな事言われても、到底受け入れられなかった。
だって、みんなが僕の両親だよって言っても、僕には初めて会う人達なんだ。
それに、祖母から話を聞いても、少しも会いたいとは思わなかった。
祖母がいてくれたら、それで良かったんだ。
それなのに、急に祖母が亡くなったと言われて、まだ気持ちの整理もできていないし、どうして死んでしまったのかも大人達は誰も教えてくれないし、ちゃんとお別れもさせてくれなかった。
真新しい真っ白な壁の高い建物へ入り、エレベーターで目的の階へ上って行く間、父と母に会える喜びよりも、今までの生活が一変する事への恐怖や不安しかなくて、只々不安で、狭い密室が余計に苦しく感じられたんだ。
僕の気持ちを無視して、物事は勝手に進んで、今まで存在すら知らなかった人達とこれから暮らしていかないといけない。
僕の今までが全部どこかに行っちゃったんだ。


「…柊かい?よく来たね。」

男の人は戸惑いながらも、優しく声をかけてくれた。
この人が僕のお父さん?
じゃあ、隣りのこの人が僕のお母さん?
その人は何も言わず、少し引きつった笑顔で僕を見ていた。


新しく始まった3人の生活は、いつもギクシャクしていて、ずっと不安定だった。
少ない会話の中でも祖父母のことは全く触れられず、僕も話してはいけないんだと何となく感じて、聞きたい事はいっぱいあったけど聞けなかった。
新しい小学校へと転校して、少なからず友達も出来た。
夏樹と出会ったのもこの頃。
それからも3人の関係は悪化するばかりで、毎日のように父と母の言い争う声が家の中に響いた。


「何で今さら引き取らなくちゃいけないのよ!」

「俺だって引き取りたくはなかったよ!でも、仕方ないだろ!世間の目ってものがあるんだから!!」

ある日、今までの不満とストレスが一気に爆発した。
僕が原因だと嫌でも分かった。
だから何とか止めさせなきゃと思い、言い争う二人の間に入った時。

「アンタなんか産まなきゃよかった!」

言葉と共に母が僕を突き飛ばして、棚の角に僕が頭をぶつけてケガをしたんだ。
それから増々会話が減って、2人とも僕を避けるようになった。
食事も用意される日が段々と減っていき、僕は生きていくために自然と自分で作るようになった。
掃除も洗濯も、自分で出来るよにと祖母にしつけられていたおかげで困ることは少なかったけど、母はそれが物凄く気に入らない様子だった。
家の中では無視しているのに、僕の友達が遊びに行こうと誘いに来ると、わざと友達関係が壊れるような事を言って、その時の僕の反応を見て笑っていた。
まるで、仕返ししてやったと言わんばかりのあの時の母の顔は、鮮明に記憶に残っている。
せっかく出来た友達がいなくなっても、黙ってそれを受け入れていた。
きっとあれは僕にというより、祖父母へ向けているような気がしたんだ。
だって、存在しているけど、きっとこの人には見えていない。
僕は透明人間だから。
そうやって毎日毎日心の中で、安心する呪文みたいに何度も唱えて生きていた。
だから、寂しくなんてなかった。

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