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キミのトナリ
B
「今から来るんだって。」

短い電話を終えて戻ってきた柊は、以外にも普通で、吹っ切れたような、スッキリした感じの表情をしていた。

「じゃあ帰るな。何かあったらすぐ連絡しろよ。」

「…ごめん。」

部外者の俺が居るのはダメだろうし、前に柊が俺の母親に言っていたことを思い出して、とりあえず今日は帰ることにした。

「待って。」

玄関で靴をはいていると、引きとめられ

「雨降りそうだから。」

手渡されたのは、柊の部屋にずっと置いてあったあのビニール袋だった。

「ありがとな。マジでいつでも呼んでいいから。」

心配で、不安で、念を押すつもりで抱きしめて再度言う。

「ありがとう、気を付けてね。」

いつものように、別れ際キスをして何日ぶりに柊の家を後にした。
でも、いつものように柊は笑わなかった。




エレベーターが一階に着くと、入れ替わるようにして堅苦しいスーツ姿の髪の長い中年の女が乗り込んでいく。
顔は見えなかったが、エレベーターが停止した階を確認すると、柊の家の階で止まる。
もしかしたら、あれが柊の母親だったのかもしれない。
本当は、ずっと側にいたかった。
でも、今の俺じゃここまでだ。
たかが高校生の世間知らずのガキに何が出来る?

「クソッ!」

外に出ると、ザーッと音を立てて雨が降り出していた。
仕方なく、柊から受け取った傘をさして歩きだした。
こんな時なんだから、俺の心配より自分の心配しろよと、柊にまでも苛立ってしまいそうだ。
いや、若干苛立ってる。
なんかもう、切なすぎて泣きそうになる。
歩くにつれ、徐々に雨が強くなっても、この重い気持ちを抱えながらでは、急ぐ気も起きない。
そういえば、前にもこんなことがあったような、何か忘れていることを思い出しそうな、不思議とそんな気がした。

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あきゅろす。
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