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キミのトナリ
A
―朔弥 side―


柊の携帯が、聞き慣れない音で鳴る。
ビクっと怯えるように震え、小さな身体を硬くし、膝を抱えてギュッと丸くなってしまう。
まるで全てを拒絶して、必死で自分自身を守っているような、そんな気がした。

「大丈夫か?」

大丈夫なわけない。
でも、他にかける言葉が思いつかない。
俺の声も聞こえていないのか、全く反応はなく、俺の知らない深い底まで落ちてしまったような、そんな感じがして、見ているだけで胸が締め付けられ、苦しくて痛くて辛い。
少しでも落ち着くようにと握った手は、真夏の蒸し暑い気温なはずなのにかなり冷たく、少し震えていた。
たまらず小さく丸まる身体を抱きしめて、髪を撫でる。
柊をこんなにしてしまう母親って、どんだけ酷い奴なんだ。
全く正体の知れない相手なだけに、余計苛立つ。


今まで、自分から話したくはないんだろうと、俺からはあまり柊の親の話を聞くことはしなかった。
いつか分かるだろうと高を括っていたし、今俺が柊にしてやれる事といえば、不安や寂しさを少しでも感じさせせないように、思いっきり甘やかして、そこから少しだけ遠ざけてやるぐらいだ。
それすら出来てるかは疑問だけど。
本当は、根本的な問題を解決してやれるのが一番いいに決まってるが、今の俺じゃ非力過ぎてどうにも出来ないのが悔しくてたまらない。
もちろん、俺が口出し出来ない問題だって理解はしてるけど、自分の一番大事な奴が苦しんでたら助けたい、力になりたいって誰だって思うだろう?
冷静でいられるかっつーの!
携帯の着信音が消えてからしばらくして、やっと柊が顔を上げた。
慌てて様子を確認すると、さっきまで俺を見てキラキラと輝いていた瞳が、今は光を失ったように虚ろで、悲しげで、諦めたような、遠い目をしていた。
今まで何度か見た、それよりももっと深く遠い所へ行ってしまったような顔に、酷く不安になる。

「柊?」

名前を呼んで、ようやく絡んだ視線。
やっと俺を見た。
そして、無理やり少し笑って、

「電話してくる。」

そう小さく呟くと、リビングを出ていった。
遠くで雷が鳴っている。
さっきまで日が出ていたのに、いつの間にか真っ黒な厚い雲がすぐ近くまでやって来ていて、今にも雨が降り出しそうだった。
ムシムシと湿気を含んだ暑い空気が身体中にまとわりついて、気持ち悪い。
この不快感はそれだけじゃない。
たぶん俺は、怖いんだ。
怒り、不安、恐怖、悲しみ、焦り。
今まで体感したことのない、グチャグチャといろんなものが入り混じったこの感情に、かなり戸惑った。

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