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キミのトナリ
B

―柊 side―

周りの景色はいつも通りなのに、僕たちはそうじゃない。
電車の車内でもお互い無言のまま、何で朔弥が怒っているのか、僕は全然分からなかった。
お祭りに行くまでは、普通だったのに、先輩たちと会ってから急に怒り出したんだ。

チラッと朔弥の様子を伺うと、不機嫌そうに立ったままドアにもたれて、流れていく景色を見ている。
きっと朔弥の怒りはおさまっていないんだろう。
朔弥にこんなふうに嫌な思いさせて怒らせちゃうんだったら、僕はずっと一人の方がマシだよね。
そうさせている理由さえも分からないなんて、自分でも呆れてしまう。
この重苦しい雰囲気を、どうやったら変えられる?
どんな言葉をかければいい?
僕はどうすればいい?

頭の中でグルグルしているだけで、何も良い考えは浮かばない。
ただただ怖くて、苦しくて、目の前が真っ暗に思えて、もしかしたら、朔弥から別れの言葉を聞かされるのかもと、不安感で胸が締め付けられる。
本当は、今すぐここから逃げてしまいたかった。


僕の心の中では、恐怖、寂しさ、悲しさ、嫌悪感、苛立ち、いろんな感情が入り混じって余計に混乱する。

一番怖いのは朔弥に嫌われてしまうこと。

それから…

あの女の先輩。


自信たっぷりな目で、僕を睨んで、朔弥を連れて行こうとするあの人が、僕は嫌いだ。
そして、はっきりと自信たっぷりな声で、僕に宣言した。

『朔弥は私のモノ』

そんな言葉を聞いても、何も言い返せない自分。
あの人が、怖い…羨ましい。
何も考えずに自分のモノと大声で言えるあの人が、心底羨ましい。

乗車前に繋がれた手は、ずっと繋がれたままだった。
この手を信じたい。
温かい温もりを、握られた強さを、その意味を、まだ希望があるって信じたい。
絶対に終わりになんて、したくないんだ。
辛うじて残っている勇気を奮い起たせる為、 空いている方の手で、自分の太ももを思いきりつねり、真っ直ぐ視線を朔弥へ向けた。




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あきゅろす。
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