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同じ色の瞳に同じ色の灯を燈して


 フィガロの夜は、寒くて長い。
 十年ぶりの再会を祝う夜に二人はワイングラスを傾け合って自室で飲み続けていた。
 玉座の間で飲んでいたのも束の間、自室であの頃のようにゆっくりよを明かそうとマッシュが提案して今に至る。

「兄貴、髪伸びたな」

 そっと持ち上げる同じ色の髪を弄ぶように彼は香りを嗅いだ。マッシュの鼻先にふわりとエドガーの毛先が揺らぐ。
 まるで恋人にするように目を細めた弟を見て、彼は目を細める。

「お前も随分背が伸びたな」

 それを避ける様にエドガーはそっと離れて椅子に腰を下ろした。大人になれば、変わると思って居たのに、二人の間に流れる空気は10年経っても変わらない。
 子供の頃はエドガーの後ろに隠れていた少年も、今は彼の前に立つ程成長を遂げている。
 たった二人の、どこにも逃げられない閉鎖空間。



らくだ's request No.[マシュエド]
同じ色の瞳に同じ色の灯を燈して



(この空気を、なんとかしなければ)

 焦りを見せれば終わりだ、そう彼は自分に言い聞かせる。
 子供の頃は、マッシュを苛んでいた劣等感を慰める為の情事を行っていた記憶が、エドガーの脳裏を掠めた。
 ひとつだから同じだと、劣等感を覚えなくても良いのだと、そう慰めた過去の自分に嫌気が差す。
 子供の頃に何度となく重ねた身体の記憶を、十年を経過してなお鮮明に思い出せた。
 流されれば、子供の頃と同じく同性の近親相姦という背徳を繰り返す事になってしまう。
 一歩、マッシュが距離を詰める度に鼓動が鳴る気がして、エドガーは一瞬息を飲んだ。

「もう、俺は王家の人間じゃない。それって他人って事だろ、兄貴」

 既に彼は王家と切り離されて、戸籍上はフィガロの人間ではない。
 否応無しにその言葉はエドガーへ枷を取り付けた。
 マッシュの大きな掌は、10年前では想像も出来ない程男らしくなっている。以前はマッシュに対する罪悪感から抵抗できなかったエドガーが、10年を経て物理的に抵抗できなくなった。
 それを理解して、マッシュはゆっくりと距離を縮める。

「国とか、どうでもよかった。兄貴を守る為に、俺は出て行ったんだ」

 そっと近づく吐息がエドガーの耳上を掠める。吐息が甘くエドガーの頬を色付けた。
 この後を期待している自分が、エドガーの中でどこかにある。

(こんなことを避けたくて)

 彼は心を引き裂くように別れたというのに。マッシュは近づくために離れたと言うのだ。
 ぞっとするほど冷えた室内で、エドガーの指先が、無骨なマッシュの手に絡め取られる。同じ色の髪、同じ色の瞳が別の熱量を指先から伝えあった。
 期待してはいけない、その先は絶望しかないのだから。

「マッシュ……私は……」
「兄貴、兄貴は俺の兄貴だよ」

 大きな掌がエドガーの頬を優しく抑える。
 ゆっくりと、薄い唇が塞がれて、息が出来なくなった。
 足りない酸素を脳が欲しがり甘い蜜を垂らす。
 息は相手の口の中からしか取り込めず、結果的にマッシュの唾液ごと飲み下す事になる。
 卑猥な音を立てて、注ぎ込む熱量は理性を融かす合図。

(息が出来ないのは、この部屋の酸素が薄いからだ)

 きっとそうだとエドガーは決めつける。
 だから、この回らない思考回路を支配しようとする弟の姿も、酸素が薄いせいだと――言い訳をしなければ、エドガーの思考はどうにかなってしまいそうに、銀色の唾液が甘い蜜の味を想わせたのだった。

 落ちる、堕ちる、墜ちる。
 これから繰り返される秘め事は、誰の耳にも届かない。




リクエスト RT user らくだ様


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