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過程

――閉じ込めてしまいたい記憶たち。

『俺の為に生きて』

と、そう言ったから。


 こんな愛撫の仕方を彼女は知らない。乳房だけでなく、鎖骨、脇、臍周り。薄い舌先が緩やかに光る雫を残す跡。彼は左手の指先の腹でセリスの顎を撫でてゆっくりと下へ這わせる。胸の谷間から形をなぞるように脇腹、腰骨へ。
 ゾクリと甘い痺れが背筋を走る。腰骨まできた指先に、何かを期待するしてセリスの腰が揺れた。
 その少し浮いた瞬間にロックの手がセリスの下へ潜る。形を確かめるように、下部から上部へ揉まれていく感覚に、思わずセリスは腹部を舐めるロックの肩を掴んだ。

「怖い?」

 上目遣いに見上げてロックが問う。首を振って、肩を掴んでいた手を離すセリスは、少し考える。その余した手でたどたどしく彼のバンダナの結び目を解くと、セリスはバンダナを握ったまま手をシーツへ下ろした。
 くすり、と切なそうに微笑んで、彼は上体を起こす。一気にシャツを脱いで、彼の上半身は露になった。肘から先と彼の前髪がシャツによって持ち上げられると、蒼い月明かりに照らされて綺麗だとセリスは心でシャッターをきる。前髪がバラバラと落ちて、少しバンダナの跡が戻った髪の毛は自由な方向を向いた。

(厭じゃ、ない)

 生きる理由がないなら、生きる理由が見つかるまでの間、代わりの理由にすればいいと彼は自分を差し出した事をセリスは正しく理解していた。それを、嫌だと思わない自分が居る事だけが、不思議に甘い痛みとなって現れる。
 どうせなら、このまま自分だけのモノになればいいのにという刹那的願望が芽生えたのは、きっとこの月明かりのせいだと願って、セリスはロックが床に投げ捨てた服に視線を送った。
 執拗に舐めた腹部を撫でて、ロックはそっと太ももの付け根内側に親指をいれる。開くように指示する親指に抗う事なく彼女はゆっくりと足を開いた。茂みにそっと唇を当てて、ロックが舌先でセリスの蕾を探りあてる。

「え、ぁっ…!」

 理解していた筈なのに、セリスは急に湧き上がる羞恥を抑えきれなくなって太腿を動かす。ロックの親指は、それに気付かないとでも言いたげにセリスの秘部を隠す肉を開くように抑えて、蕾の周囲と蕾自身を転がすように刺激した。蕾から小さな紅い芽が剥きあげられると、蕾の下で色の無い液体がシーツを濡らし始める。
 濡らしたシーツが、少し浮かせた尻に当たって夜の冷気を感じさせた。
 唇で挟んで蕾を揉み、舌先で転がすように剥かれた華の芽は熱気を帯びて彼女の身体を支配し始める。熱に浮かされて、快感だけを欲しくて、嫌がって、身をよじるセリスにロックはそのまま蕾の下へ舌を滑らせた。

「や、そこ…ぁっ」

 ロックの舌先が割れ目を撫でたかと思えばゆっくり中へ進入しようとする。生暖かい舌がセリスの濡れそぼる膣入り口を刺激すると、更に割れ目は潤滑油を生み出した。

「もう、だめ、ゃっ…」

 切なそうに息をきらせて哀願する彼女を、鋭い眼差しで見上げる彼の表情は、百獣の王にも似た獣の姿に見える。視線が合うと、余計に鼓動が高鳴ってセリスの思考はかき乱された。
 ロックは上体を起こしてセリスにの肌に密着するように覆いかぶさると、優しく頬に口付けを落とす。ロックの熱を帯びた胸板と腹筋が、自分の胸と腹部におしつけられると、抱きしめられたように安心する。

(ロックも、熱い、のか)

 セリスの背に腕をいれて密着したまま上体を起こされると、彼の熱が全身から伝わってくる。自分だけがおかしいのではないんだと気付いて、安心したセリスは唇を重ねられる事に喜びを見出した。自分の舌ももっと奥まで彼を求めたいと積極的に絡めた瞬間、ロックの指が濡れた彼女の膣先で指の腹を動かし始めていた。
 痺れる頭に、一つの雷が落ちた衝撃。白くなる脳裏。指先はチャプチャプとはしたない音を立ててゆっくり沈められようとしている。何度も繰り返し指を動かされているうちに、第一関節がセリスの中へ沈められていた。「せま…」とロックが唇を重ねながらこぼした呟きがそのままセリスの口の奥へ響く。

「痛…っ」

 指先だけなのに内蔵に爪を立てられたかのように痛い。拷問すら声を上げずに耐え抜いた彼女は、思わず漏れた声に自分で動揺する。少し考えてかた、初めての性行為はもっと痛みを伴うのだと聴かされていた事を考えるだに、少し楽なほうかもしれない思い始める。彼女の反応に、ロックが一瞬手を止めるが「お願い、続けて」とセリスはロックの口を塞ぎなおした。
 少し膣中の壁を確かめるように撫でられると、ぽたりと雫が尻の割れ目を辿ってシーツに落ちた。
 撫でられていると解る中の壁にざらりとした感触。少し出し入れを繰り返して中を確かめるロックの視線が彼女の安全を確かめるように下に落ちる。彼女はシーツをぎゅっと掴んで感情の濁流に耐えようとした。
 彼がゆっくりひきぬいた指先に、少しだけ鉄の匂い。セリスが自分の血だと解ると同時に、彼はそれを舐め取った。

「やめるなら、いまだぜ」

 彼の言葉が音でしか理解できない。深い意味で理解する事が出来ずに、彼女は心の底からこう言った。

「ロックが、私の、生きる意味に…なってくれるんでしょう?」

 痛みで一筋の涙がセリスから零れ落ちる。ロックは、涙の筋を舌先で舐めとって今度はベッドに押し倒す形で彼女に口付けた。
 ロックがベルトを外してボトムを脱ぐ。自身のそそり立つモノを片手で軽く扱いてから彼女のもう一つの口へ密着させる。月明かりを反射させたブルネットの髪の隙間から、真っ直ぐな視線に出遭って、セリスの鼓動は破裂しそうに脈を高くした。

「お前が、要らないって言うまで」

 ゆっくりとロックの亀頭がセリスを侵食せんと膣へ入り込もうとする。痛みで何度も亀頭を擦るだけになり、焦れて乾いた隙間を、何度もロックが丁寧に唾液で濡らしていく。
 幾度目かの侵入を試みて、ようやくロックのペニスは彼女の膣内半ばまで入った。

「おまえ、狭っ……」

 ゆっくり、ゆっくり。動くか動かないか位の早さでセリスの中にロックが侵入していく。身体を抱きしめた時よりもっと熱い肉が彼女の狭き道を開いた。

「熱っ……」

 セリスが零した言葉と涙に反応して、ロックの肉棒が大きさを増す。そしてお互いに声にならない声を上げると、二人の形は奥まで入り込んで一つになった。
 ゆっくり動かすと慣れない感触に身体が彼の肉棒を追い出そうとする。唇を噛み締めながらゆっくり彼が腰を動かすのに気付いて、セリスはシーツを抑えるように置かれたロックの手に自分の手を重ねた。

「悪い、痛かったら言えよ…?」

 何の謝罪かはすぐに解った。少しずつ速度を上げる腰の動きに、我慢していた声が漏れる。ロックの抑えた息遣いが荒く、はぁはぁと声を漏らす様と、まるで捕食されるように動かされている腰はやはり百獣の王に似た姿を思い浮かべさせた。
 ロックの額から汗の雫がこぼれ落ちる。腰を一つ動かす度に熱を孕んだ腹部から全身にじわじわとしみこむ熱。

「あぁ、ああぁ…ぁっ!」

 徐々に込み上げるてゆく、快感。何かに渇き、餓えた獣同士、この快感だけに流されていけばいい。それだけを生きる証とするならば。速度を増すたびに、奥へ突き上げられる度に少しだけ浮く腰と漏れる痛みとも快感ともつかない嬌声。視界すら白く染まるのではないかと思うほどに擦れ合う壁と棒。
 繰り返し続く儀式は肌と肌が叩きつけられて卑猥な音を立てる。はしたなく響くピチャリ、パン、パン、と一定のリズムに乗る音が、更にセリスの思考力を奪う。
 セリスの思考がはじけて数分後、彼の肉棒が慌てて抜き出されると彼女の腹部を支配するかのように白く、汚した。
 ごろり、と音がする程の勢いでロックがセリスの横へダイブして大きく気怠げな息を吐いた。セリスがロックの前髪を指先で掬い上げると、指の間からパラパラとこぼれ落ちる。そのまま二人は泥のように眠りに就いた。

―――貴方が、私の生きる意味になるのなら、
私が貴方という存在を利用してもいいというのならば。


私は、
貴方の剣になろう。
だから、私の全てを利用して―――


二人に要らないものは、
その過程。

- Fin -
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執筆者/羽織 柚乃


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