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◇needless/視界

 緩やかな手つきで彼のバンダナの結び目を解く。ロックの顔の前に落とすようにバンダナの端は重力に従って彼の鎖骨を通り過ぎてセリスの胸元に落ちた。
 ロックが逸れをぼんやりと眺めると、セリスは目を伏せて自らの手で自分の視界を隠す。緩い結び目は動かしたら解けそうになりながら、彼の首もとにしがみついた。

「これじゃ、セリスの顔見れないだろ」


必要い、だからえて
[needless…視界]



 首もとに両腕でしがみつくセリスの耳朶に唇をあててロックが囁いた。回した指先で、頬で、ロックの耳朶の位置を確かめると、彼女は囁く。

「見えるモノに、真実がないなら、」

―――私は視えない貴方を知りたい、と。

 抱き締めても、繋がっても。彼女の心を潤せていない事に、無力感を感じた彼は瞳を伏せてバンダナの上から口付けを落とし、痛い位に彼女を抱き締めた。

―――俺の心が此処に在るって、言葉で、体で、伝わらないなら、

 同じ時間を過ごす、その時間の永さで表したら信じてくれるだろうか。彼は心に誓う。彼女の心から氷が溶けなくても、何度でも挑み続けてやるから――

「…泣くなよ」
「泣いてなんかいないわ」

 セリスは乾いた唇でロックの耳朶にキスを落とす。彼女は見えるモノが全てじゃないと言ったから、彼も応えた。
 決して涙を流さない彼女の心にある傷をなぞるように、バンダナで塞がれた彼女の瞼を指の腹でなぞる。

「お前の心の中だよ」

 強く抱き締めた腕を解放して、セリスの唇にキスを落とす。舌先で唇をなぞり、舌を絡めて銀色の糸を引かせると、彼は彼女の視界を遮るバンダナを外した。
 ゆっくりと目を開く彼女の双眸に、絶望色のアクアマリンが並ぶ。

「視えてるモノに真実がないんだろ?」

―――なら、俺もお前の視えない孤独を、寂しさを、
分かち合いたいと想うから―――

「なら、俺の両目を抉り抜けばいい」

 彼女はそっとロックの顔に手を伸ばして瞼の横に指先を触れさせる。指先が震えて、爪先が彼の頬を引っかくように落ちた。
 だから、少しでも、その孤独を俺に分けてと、今日も彼女の酸素を全て奪う。彼女の痛みが消える日まで。

- Fin -

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執筆者/羽織 柚乃


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