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蘭鋳(学園)





夏祭りで、出店の金魚すくいにひたすら魅入った時がある。
その時は但、きれいだとしか感じていなかったと思う。
水面に映る電飾と、赤、白、黒、色とりどりの色彩と。
悠々と泳ぐ、その様が。






「元就サン、」



部活帰りに、通り掛かり窓から声をかけたら、きっ、と睨まれた。
詫びれはしない。
声だってかけたくなる、こんな、真っ暗な音楽堂に一人で蹲ってたら。
具合でも悪いのかって。



「what are you doing?
明かりも付けないでどうしたんだ?」
「伊達か、貴様には関係ない、」



立ち上がってよろよろとピアノの椅子に座り込む、その姿はいつもよりも弱く見えた。
何かあった。
それは見れば分かるぐらいで、心配になって窓から音楽堂の中に入り込んだ。
勿論、靴は脱いで。



「元就サン、隠しても無駄、そのfaceじゃ筒抜けだ」



そっと軽く抱き締めると、珍しい、抵抗なくすんなりと納まった。
落ち着くようにと背中を叩くと、こつりと胸に額を寄せてきた。
ああ、きてよかったかもしれない。
大分弱っているようだ。



「…‥また、二人辞めた、我のせいだ、このまま部員が減ってゆけば、メンバーが足りなくなる、満足な演奏が出来なくなる、」
「大丈夫、元就サンは頑張ってる、心配することじゃない」



確かに春から比べたら、吹奏楽部の部員は減る一方だが。
聴いていて分かる、質は間違いなく上がっている。
この人の徹底した指導と指揮のおかげだ。



「辞めてったのは只のchikinだ、どうってことない」
「けれど、」
「元就サンの音楽を分かってるヤツは必ず残る、だから大丈夫だ」



確信はないけど、この人に付いていくという輩はそれなりにいるだろう。
何より、自分はこの人の指揮する演奏を聴きながら野球をするのが一番いい。



「伊達、」
「don't worry」



何となく、あの夏祭りの金魚を思い出した。
悠々と泳ぎ、堪らなく魅了するあの赤。

今なら分かる、あれは只優雅だから美しいとか、そんなのじゃない。
あれは狭い水槽の中で、藻掻いて生きているからこそ、きれいなんだ。

この人は今、必死に藻掻いて息をしている。
だから堪らなく魅了される。







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