仙流復活祭 二律背反(9) 洗い物をして仙道が戻った時には、流川はベッドを枕にして眠ってしまっていた。 仙道は苦笑して、彼の側にしゃがんだ。 「寝るんならベッドで寝ろよ……お姫様抱っこしちまうぞー?」 ツンツンと指で額を突いてみるが、流川は目を覚まさない。 しゃーねーなぁと呟いて、言葉通り流川を抱き上げた。 そうしてベッドに寝かせて彼を見つめる。 夏ももう終盤だ。 自分達が付き合う様になってから、もう一年か…と仙道はしみじみと思い返す。 互いにライバルだから、逢えない時期もある。 この後の国体は一緒のチームだな、と思って仙道は笑みを浮かべた。 「オレがおまえを自由に跳ばせてやる…」 そう呟いて、仙道もベッドに入った。 受験態勢に入るならインハイで引退するのがベストだが、国体は選ばれたメンバーしか出られないのだし、流川と一緒のチームなんてこれが最後かも知れないので、今の処、国体まではやろうと思っている。 推薦の声が掛かるかどうかで話は変わるが、行きたい大学は決めているので、受験はちゃんと考えておいた方が良い。 先週流川が姿を見せなかったから、恐らくは悔しかったのだろうと思う。 超絶に負けず嫌いの彼が、それでもこうして自分と関係を紡いでくれるのは、自惚れではなく惚れてくれているのだと思い、仙道は流川を抱き寄せた。 「……ん…っ……」 小さく息を漏らすが、スヤスヤと眠っている彼の髪にそっと口づけて、自分も目を閉じる。 流川の体温を感じているうちに、仙道も眠りに落ちていった。 そして流川がすうっと目が覚めたのは、遅い朝だった。 クーラーの止まった残暑の温度に薄っすらと汗をかいていて、さっとシャワーを浴びようかと思って、目の前の仙道に目を止めた。 安らかな表情に、昨日は見なかった違和感…と言っても男なら極普通の事で、薄っすらと生えている髭を見つけてしまった。 流川はそっと仙道の頬から顎へと指を滑らせて、ポツポツと当たる感触に何故だかムッとして指を離した。 自分はやっと少し生えてきた程度で、2〜3日置きに剃る位で、毎日処理する様な量じゃない。 たった一年の差で、仙道に全てを先に行かれてる気がして悔しくなる。 一年の差が大きいのは若いうちだけで、大人になれば大して関係ない事なのだが、今の流川にはそんな先の思考はない。 毟る程長くはないので、代わりに仙道に軽いアッパーを喰らわせた。 突然の衝撃に、当然目覚めた仙道が、顎を押さえながら流川を視認する。 「流川ぁ…;起こし方ワイルド過ぎるだろ……もっとやさしく起こしてくれよ〜」 文句を言われて、流川はフンとそっぽを向く。 何がお気に召さなかったやら、この気まぐれ王子には困ったものだと思いつつ、彼を引っ張って腕の中に抱えた。 「おはよう」 「………オハヨ……」 一応体育系なので、挨拶はちゃんとする。 ムクレているので小声ではあったが。 「キスで起こしてくれとは言わねーけどさー……何かあったか?ムクレるよーなコト」 [*前へ][次へ#] [戻る] |