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平志小話集
Ardent Love(ラスト)
翌日、平次と朝食を摂ってから帰ってきた志保を見た博士が、驚いた様な顔で彼女を見つめた。

「どうしたの?」
すると博士はにっこりと笑った。
何故かちょっとだけ頬を染めながら。

「心配には及ばん様じゃ…良かったのぅ」
「え?」

キョトンとする志保に、博士は応えた。
「幸せそうな顔しとるよ…ワシも服部君に感謝しないといかんのぉ」

「───え?……え?」

何故?今日は何か違うの?
そんな風に混乱した志保は、昨夜を振り返った。

昨夜は殆どえっちしかしていない。
しかも二度目と言ったら、彼の言葉通り、凄く恥ずかしくてイヤラシくて、そんな状況で幸せそうと言われたら、まるで淫乱みたいでショックである。
が、そんな事を博士には(勿論他の人間にも)口が裂けても言えないし、彼には知る由もない事だ。

真っ赤になる志保に、博士は安心したみたいに笑った。

(ちゃんと恋する娘だったんじゃなー…ワシが気付かなかっただけなんじゃな…)

実を言うと、世の中の娘を持つ父親の如く、『娘をロクでもない男にはやらーん!』なんていう気持ちも全くない訳でもなかったのだが、それよりも幸薄かった彼女が幸せそうにしている事の方が何より嬉しい。
博士は心の底から志保の幸せを祈った。


一方の志保は、これから地下に篭るという言葉代わりに、椅子に掛かっていた白衣を着た。
地下に降りて、研究に入る前に鏡で自分の姿を見る。
しかし自分では特に何かが違うとも思えない。

「あ……」
明日平次と大阪に行ってくると言い損ねた、と別件を思い出したが、まぁそれは今日中に言ったら良いだろう。
そして志保は気付いた。


確かにスケベ過ぎるとは思う。
けれども彼の人格は信頼に値する。
そんな彼にカラダだけじゃなく、確かに愛されていると感じる事が出来るから……
そして今では自分も彼を愛しているから……

結婚と言うのは夢物語ではない。
彼と苦労も共に出来るか、それが大事なのだ。


────病める時も健やかなる時も、愛し合い、共に生きる事を誓いますか────


そんな何かの誓いのフレーズが頭を過る。
志保は平次を思い浮かべた。


言葉にはしなかった。
けれど志保は、心の中で頷いた。

そうして志保は、平次から贈られた指輪にそっとキスをして、はにかむみたいに微笑んだのだった。




───────THE END

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