[携帯モード] [URL送信]

平志小話集
Ardent Love(2)
その日の夜、入浴して鏡に映った自分の姿を見て彼女は思う。
(……恋する女には見えない…って事かしら……)

多分、博士の一抹の不安はそんな所から出てきたのだろうと推察した。
でも自己肯定のやや低い志保は、こんな自分が可愛くなんかなれないわよね、なんて思ってしまうのだ。
だがそう思った途端、愛する男の声が心に響いた。

『めっちゃ可愛えv』

抱かれる度と言っていい程、言われる言葉。
途端に志保は真っ赤になった。

『あー、もー、可愛えvv』

『凶悪に可愛えっちゅーねん!』

『志保がどんだけ可愛えか、オレだけが解っとったらええねん』

次々と関連する彼の言葉が浮かんで、志保の躰が火照る。

「……服部君……」
吐息の様な、甘い言葉が志保の口から漏れた。
大きな乳房を腕で囲むみたいにして自分の躰を抱きしめる。

こんな彼女の何処が恋する女じゃないと言うのだろう、けれど確かに平次以外には見せない部分だ。
多分平次にしてみれば、志保が自分以外にあまり『女』を見せない事も、淡々としている日常と抱く時のエロさや可愛らしさとのギャップも、それはオールOKなのだ。

平次が志保本人以上に志保を肯定してくれる。
そして彼からよく言われる「可愛えv」という言葉が志保を自覚以上に変えていた。

「服部君……」
志保はもう一度彼の名を呟くと、瞳が艶を持って彼女をより美しく見せた。
そして、彼にとても逢いたいという気持ちになってしまったのだ。


部屋に戻ってバスローブを脱ぎ捨てると、クローゼットから似合うと言われたピンク色にラベンダーのアクセントの付いたレース使いの下着を出して身に着ける。
それは彼女の肌色に調和して映えて、胸の谷間を美しくエロく演出した。

これから寝るのならブラは着けなくて良いのだけれど───そう気付いて志保は自嘲の笑みを浮かべる。
するとそこへスマホの着メロが流れて、志保はビクッとした。
見ると平次からで、彼女はドキドキを抑えながらそれに出た。

「……はい」
『お疲れさん、今日も研究しとったん?』
「そうよ───今何処に居るの?」
『ん?外やけど……米花駅の近くや』

思わず言葉に迷った為に、間が空いた。
『志保?何やあったん?』
鋭い平次が小さな異変に気付く。

「……何でも……」
取り敢えずそう返したものの、平次は何かを感じたらしい。

『今部屋に居るん?ほんならそっち行くわ』
ドキッとしつつも志保は咄嗟に返した。
「いいわ、私が出るから…そこに居て」
しかし、夜である事を考えて平次は言った。
『出るにしても、迎えに行くで』
「いいの、そこで待ってて?」

そう言われて平次は一度黙ったけれど、考え直した様だ。
『……解った……気ィ付けるんやで?』

志保は平次の詳しい居場所を聞いて、服を着て博士にメモを残し、そっと家を出た。
何だか笑ってしまう、待っててさえいられない程平次に逢いたいと言うのか───そんな風に自分に呆れながらも、素直な心が平次の元へと急がせる。
待ち合わせ場所で彼を見つけると、志保は敢えて立ち止まった。

一旦呼吸を整えて、逸る気持ちを抑えて普通に歩く。
すると平次が彼女を見つけて近付いてきた。

「志保」
まずは彼女自身に異状がないかをさっと見て、平次は手を繋いだ。
「折角出て来たんやったら、どっか行こか?」

[*前へ][次へ#]

2/8ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!