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平志小話集
Ardent Love
阿笠邸の地下室───小さな物音はするものの、人の声等は一切なく、そこでは淡々と真剣な表情の志保が研究を続けていた。
そうして一度息を吐いて、彼女は時計を見た。

(あら…もう3時だわ…)
昼食を摂り損ねていた事に気付くと同時に空腹を感じた。
志保はその場をさっと片付けて、階段を昇った。

キッチンで珈琲を淹れ始めると、カウンターテーブルにラップの掛かった皿を見つけた。
博士が作ったのだろうか、サンドイッチだ。
彼が食べるにしては量が少ない極一般的な一人前である。

「博士、コーヒー飲む?」
研究者と発明家、それぞれにペースがあるので取り敢えず聞いてみれば、彼は飲むと返事をした。
肩をトントン叩きながらやって来る博士に、志保はマグカップを差し出した。

「博士、これは…」
「おお、昼に作ったんじゃが、志保君の分じゃよ」
「ありがとう…いただくわ」
そう応えると、博士はごそごそと棚の中から菓子を出して、3時のおやつとばかりに籠に入れた。
志保は志保でスムージーとサラダを作って、ジュレのドレッシングをかける。
健康的な+αをテーブルに並べて食べ始めると、博士がこちらを見ているのに気付いた。

「どうしたの?」
「そーいや最近服部君を見ないのー…」

最近と言っても半月位だが。
博士が見ていないだけであって、志保が彼と逢ってない訳ではないのだが、何と言っても普段の彼女は淡々としていて、あまり『恋する女』のイメージではなかったりするのだ。

「卒論とか事務所の準備とか、彼の大事な工藤君との時間とか?色々忙しいのよ。その分こっちも研究がはかどって助かるわ」

ははは…と博士は乾いた笑いを浮かべた。

「服部君とは…その、上手くいってるのかね?」
「問題ないわ、今の処」

あっさりとした答えに納得したのかしていないのか、博士は志保を見つめた。

「何?」
「いや…その……;;」

突っ込んでも良いものか、博士は頭をポリポリと掻いた。
確かに志保は、平次と付き合う様になってから、明らかに綺麗になっている。
しかも遊びではなく婚約しているのだから、心配には及ぶまいとも思う。
けれども普段の彼女の態度がクールなので、一つだけ懸念があるのだ。

志保に無言で答えを促されて、博士は思い切って尋ねてみる事にした。

「服部君と結婚を決めたのは…彼を愛しているからなんじゃな?」
すると志保は目に見えて頬を紅く染めた。

「……どうして?そうじゃない様に見える?」

「大きなお世話じゃとも思うんじゃがな、あんまり冷静な志保君見とるとな……志保君には幸せになって欲しいんじゃよ」
すると志保はフッと笑った。
「心配しないで…私、自分でもびっくりする位、幸せよ?もう彼以外考えられないわ」
博士の為に素直な気持ちを答えれば、彼はホッとした様子だ。

「私が突然可愛らしくなるとか、それはないわよ。私はこういう人間だし、……まぁ、服部君も物好きだとも思うけど」
「そんな事はあるまい」

博士は苦笑する。
志保は男から見て、かなり魅力的な部類に入ると思うのだが、本人は気付いてないのだろうか。

「志保君が決めたんなら、ワシは応援するよ。ワシはいつでも志保君の味方じゃ」
「……ありがとう……」

何だか面映い気持ちで、志保は頬を染めたのだった。

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