平志小話集
A Happy Way(7)
ベッドに潜り込んで、もう一度志保を抱きしめる。
すると彼女が小さく身じろいだ。
「……ぅん……」
鼻に抜ける息をして、彼女はゆっくりと目を開けた。
「スマン、起こしてもーたか?」
「………今何時?」
起き抜けの、トロンとした瞳が可愛い。
「11:45やで。…腹減ったやろ?買うてきてくれたん、食おか」
確かに、起き抜けでも空腹を感じる程だ。
服を着ようとしたら、やんわりと手を握られた。
「別に着なくてもええやん、夏やし、オレ等しか居らんのやし」
「何言ってんのよ、そんな事出来る訳ないでしょ」
眉を顰めれば、平次はあっさり返した。
「着たかてまた脱がされるんやから……ぃてっ」
ペチ、と志保に顔を叩かれた。
「貴方程の獣じゃないのよ」
「えー?」
「何よ、そのクエスチョンマークは?」
頬を染めて睨まれるのも、何だかそそられる。
「ほんならこれだけで手ぇ打とーやv」
出されたソフトホワイトのエプロンに、頭痛がするのは気の所為だろうか?
「腹ペコやし、早よ食おーや」
そう言って強引に連れ出され、着替える暇もない。
躰を隠す為に、持っていたエプロンを咄嗟に着けるしかなかった。
振り切って着替えに戻るのも、こうなったら無駄だろう、志保は深い溜め息をついた。
(……こんな人を好きになったのが運の尽きかしら…)
しかし、スケベなくせに明るい男の所為で、後ろ暗さは感じない。
平次が冷蔵庫から幾つかの料理とサンドイッチの皿を出し、グラスに野菜ジュースを注いだ。
「気ィ利かせてくれて、おおきにな」
そう言われて、もう志保も抵抗の気が逸れてしまった。
二人で食事をして、会話を挟む。
「オレの所為にしてもーたらええから」
「え?」
突然の会話の転換に、志保は目を見張る。
「せやから、こないな時位、武装も何も脱いどき?」
「……別に、武装なんか……」
していないと言い切れるかどうか解らない。
けれど平次はそれに対して何も追求せず、アイスティーを作って出した。
喉の渇きもそれで癒して、別の会話をしながら笑う平次を見つめた。
夏で少し肌の濃さが増しただろうか、相変わらず筋肉の締まったイイ躰をしている。
(高校生の頃はまだ子供っぽかったのに…)
ふと、志保は平次の性格や言動を思い返す。
今ではいつの間にこんなに大人の男になったのか、何やら器のデカくなった男をまじまじと見つめた。
「何なん?照れるやん…////」
「べ・つ・に?」
「そないエエ男かー、オレ?♪」
おちゃらけた事を言われて、志保は一瞬返しに迷った。
そして、口角を上げてさらりと応えた。
「そうね、イイ男かも」
「へ……」
予想外の台詞に固まってしまう平次に、志保はプッと笑った。
「自分で振ったんでしょ?」
「いや、でも……」
真っ赤になる平次が何だか可愛らしい。
してやったりな感じがして、気分が良い。
たまには反撃として、素直な事を言ってみるのも楽しいかも知れないわね、と志保は悪戯な笑みを浮かべた。
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