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平志小話集
A Happy Way(2)
「暗い所からいきなり太陽の光を浴びれば、人は眩し過ぎて顔を背けるものよね。だから、先に月の様な強過ぎない光が必要だったの」

志保は目を見開いて彼女を見た。
暗い所という比喩は、まさか具体的に解る訳はないだろうが、いやに的確だ。

「………お姉ちゃん……」
「え?」

思わず呟いた志保を驚いた様に見た占い師は、暫くしてにっこりと笑った。

「大丈夫、貴女はこのまま貴女の心を偽らなければ、幸せになれるわ」

まるで姉が幸せを願ってくれているみたいな感じがして、志保は知らず、一筋の涙を零した。



ブースを去った後も、一度そちらを振り返ってみれば、次の客が入ったらしく、カーテンが引かれた。
志保は苦笑すると、公園の外の店まで出向き、氷と共に5〜6本まとめて飲み物を買った。

そうして現場に戻れば、容疑者が絞られた様で、色々聞き込んでいる。
志保は平次に近付き、合間を見て飲み物を渡す。

「おvおおきに、めっちゃ有難いわ」
高木が容疑者3人に聞いている様子を見ながらも、平次は一気にペットボトルを空けた。
やはり相当喉が渇いていたのだろう、日差しを考えれば当然だ。

すると平次は何かに気付いた様で、志保にボトルを渡して高木に割って入った。
やがて始まる推理ショーを、志保は少し離れて見ていた。

灰原哀だった頃によく見た工藤の姿が重なる。
推理のタイミングと行動は、本当によく似た二人だ。
それでもあの頃工藤を見ていた気持ちと、今平次を見ている気持ちは違う。
自分の様に誇らしく、暖かい気持ちがする。
それはやはり両想いの仲だからだろうか。

そんな事を考えて照れ臭くなってしまうが、事件の解決を見届け、刑事達の分も買った飲み物を袋ごと高木に渡した。
氷は大分溶けてきているが、それで保冷していたペットボトルは何とかまだ冷たかった。
「うわ、ありがとうございます」

刑事達とて炎天下で喉は渇いただろう、タイミングを見て仲間に手渡していた。
そして事情聴取は遠慮する事にして、平次は志保の手を繋いだ。

「ゴメンな、暑かったやろ」
「……事件じゃ仕方ないわよ。それがないと貴方じゃなくなるものね」
そう言われて苦笑すると、平次は歩きながら訊いた。

「飯食おか…何食いたい?」
「……そうね、冷たい麺とか」
「よっしゃ、そうしよv」

ふと、志保は繋がれた手を見て頬を染めた。
男女カップルなら普通の事だが、志保にはちょっと照れ臭い行為なのだ。
けれどあまりにも自然にそうされるので、段々と馴れてしまっている自分が居る。

そうして歩きながら、志保はふと、占いブースを振り向いた。

「ん?何やあるん?テント張っとるな」

ちらほらと人が待っているのが見える。
もうあの明美に似た占い師はこちらからは見えない。
すると志保は、今度は平次を引っ張る様にして、公園の出口の方に向かった。

「志保?」
「占いには興味ないのよ」

あっさり言う彼女の言葉を、平次は納得した。
さっきのが期間限定占いブースだという事が判り、自分も特に興味のない物なので、また志保と並んで歩き出した。

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