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平志小話集
Lovable Fool
それは初夏のとある週末、料理を習いがてら平次も手伝い、出来た物を二人で食べた後の寛ぎの時間だった。
付き合い始めは全然出来なかった料理も、簡単な物なら作れる様になった。
もう女性に家事の全てを任せっきりな時代ではないし、況してや平次は平穏が当たり前という生活ではないのだ。
人生何が起こるか解らないのである。

そんな時に鳴った携帯を彼は受けた。

「どないしたん───何て?」
志保はちらりと平次を見た。
彼は何か聞きながら頭を回転させている様子。

「そんなんで一々戻ってられるかい、おまえ刑事になるんやろ?せやったらアドバイスはしたるから、自分の足と目で確かめてみぃ」

そんな台詞で相手が彼の幼馴染みだと判った。
志保は手近にあった雑誌を取ってページを捲った。
それを読んでいる態度を取りながら、耳には平次の声が入ってくる。

ちょっとした事件なのだろうか?思った事を確かめさせながら推理をしている。
志保はその幼馴染みの姿を思い浮かべた。


何故か彼女の事は、あまり良くは思えない。
平次が自分にアプローチを掛けていた頃にも、「どうして私なの?」とは訊いた事はあるが、「貴方にはあの幼馴染みの娘が居るんじゃないの?」とは言った事がない。
ぶっちゃけた話、彼女に遠慮は一切しなかった。

それも不思議だなと思って、志保は記憶を遡った。


大体、灰原哀を名乗っていた頃は、平次との絡みはそう多くはなかった。
工藤絡みの事件の時に、場合によっては話す位で。
況んやワンクッションのある遠山和葉と話した事などないのだ。

あの頃は平次の事を『工藤君の秘密を知っている西のお友達』という認識しかしていなかったのだから、特に彼女を気に食わないと思うシチュエーションなどなかった筈だ。

…と、そこまで思って、ある事件を思い出した。
(……あ……)

工藤と少年探偵団の子達がイージス艦に乗ったあの時、別行動の自分と博士が平次と、不必要なのにくっついてきた彼の幼馴染みと一緒に行動した時。
大声で泣き喚く彼女にウンザリしたのを思い出した。

志保はその育ちの所為か、自分の愚かな行動で引き起こした事に対して、人前で泣いて済ませる様な女が、同じ性別でも好きではないのだ。
しかも、女とは泣く心理の異なる男である平次が、どうして良いのか解らずオロオロしてしまうのも当然と言えば当然なのだが、それが余計に和葉の印象を下げたのは間違いないと思う。

志保はふと眉を顰めた。

(……私…あの娘じゃなくて私を好きになってくれた服部君の事……何でとも思いながらも嬉しかったのって…まさかそんな理由じゃないでしょうね?)

でも、そこまで和葉の事を気にしていたとも思えない。
何故なら自分には直接関係のない人物だったのだから、好き嫌いがあったとしても所詮他人事だ。

平次の婚約者となった今ですら、立場上、緊急事態でもない限り彼女と直接付き合う事はないだろう。


そんな考えに耽っていたら、不意にまた平次の声が耳に飛び込んできた。
犯人が解ったらしく、謎解きをしている。

「────っちゅー訳で、警察沙汰にする程の事件ちゃうし、学校側で対処して貰いや?後は任せたで」

工藤君と同じ探偵魂を持つ人───そんな風に思って、志保は平次を見た。
別に、彼と似ているから好きになった訳ではない。
寧ろ性格は正反対なのだから。

「ほんならな」
最後にそう言って通話を切ると、平次は溜め息をついた。

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