平志小話集
ホワイトデート(3)
この状況で別れ話ではないだろう。
工藤は二人にとって大事な存在だ。
けれど志保にとったら、以前好きだった男でもある訳で。
それを現在の婚約者である平次にくれるというのはどういう意味なのか。
────工藤を、食べる??
男同士の親友で、エロい意味は取り敢えず却下しておく。
幾ら何でも自分の彼女がそんな事を望むまい。
食べる、飲み込む───そんなワードから色々連想してみた。
そして少し角度を変えて、自分は志保に何かしてしまったのだろうかとも考えた。
意味深に笑った彼女は、尻尾を揺らめかせた小悪魔にも見えなくはない。
平次は、志保が新一を好きだったと知っていても彼女に惚れてしまったし、新一の方にその気がないのを良い事に、諦めないで誘い続けた。
その結果、彼女の心も躰もゲット出来た…と思う。
彼女が本当に新一を過去として吹っ切れたかどうかは彼女にしか解らない。
工藤は平次にとってはかけがいのない親友で、彼を失うなんて事は考えられない。
だから、三人の関係はある意味複雑で、ある意味シンプルだ。
「けど……志保はオレん事が好き…やんな?」
思わず呟いてしまった平次の隣から、声が聞こえた。
「そこ間違えたら怒るわよ?」
ハッとして横を向けば、志保はバスローブ姿でグラスを二つ持っていた。
赤いワインの入ったそれの片方を差し出されて平次は受け取ると、志保は乾杯の仕草をしてから訊いてきた。
「…答え、解った?」
平次は暫く志保を見つめてから、静かに答えた。
「オレに……工藤を超えて欲しいん?」
すると志保は首を横に振った。
「貴方達はそのままで良いのよ、お互いを高め合える良い関係じゃない」
「今のオレでええん?」
「そうよ?」
そう応えてワインを口にする志保を見て、取り敢えず平次もワインを飲んだ。
志保は自分を選んでくれた。
一般的には、男より女の方が切り替えは早い。
だとしたら、寧ろ拘っているのは自分の方なのか?
けれど、志保の気持ちは否定していない。
それも彼女を作ってきた一部なのだから。
「……オレ、工藤ん事、気にしてる様に見えるん?」
「───って言うか…貴方は工藤君を好き過ぎるから」
「へ?」
意味を捉えかねた顔をする平次に、志保は続けた。
「貴方、女が工藤君の事好きになるのは仕方ないって思ってるんじゃない?」
「そら、まぁ……アイツはそれだけの男やし」
女心は事件の推理よりも平次には難しい。
イマイチピンときてない彼に志保は言った。
「だから工藤君なのよ、それ」
驚いた表情をした平次は、暫くの後、嬉しそうに笑み崩れた。
やっと、答えが解った様だ。
志保はグラスのワインを飲み干して、ベッド脇のテーブルに置いた。
「なぁ…志保、この答え、おまえの言葉で聞きたい……プレゼントなんやろ?」
すると志保は平次が持っていた空のグラスを取って、それもテーブルに置いてしまう。
彼女は頬を染めて目を泳がせたけれど、それから平次に視線を戻した。
「───私、心から貴方で良かったと思ってるのよ?」
照れながらも言い切った彼女を、平次はぎゅっと抱きしめた。
「オレ…一生分の幸せ貰たわ…」
そんな言葉に志保は苦笑した。
大阪人は表現が大袈裟だと思う。
けれど、ストレートに気持ちを表現してくれる平次が好きだと思うのだ。
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