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平志小話集
ホワイトデート
志保は冷蔵庫の中を眺めて、リビングスペースに居る博士に声を掛けた。
「博士、麺類でもいいかしら?」
「おう……って志保君、今日は服部君とデートなんじゃなかったのかね?食事位何とかするぞ」

今日は世に言うホワイトデーである。
けれど志保はあっさりと言った。
「簡単な物を作る位の時間はあるわよ」

博士に任すと野菜類を食べない恐れがあるので、野菜たっぷりの物を作ろうと決めた。

「そうかね?悪いのぅ…」
外で食事をするという事は、少しでも志保の家事を休ませてやりたい気持ちが平次にもあるのだろうし、博士もそれは良い事だと思っている。
けれど志保にとっては博士の健康が気掛かりな様で、豚肉と野菜を炒めてラーメンに乗せて、有り合わせの小鉢を3品、さっと作った。


それからシャワーを浴びて服を選ぶ。
鎖骨が少し見える位の緩やかなラインで、下まで前釦になっているがTシャツ素材の物に、膝上10cm丈のスカートを履いて、カーディガンを着た。
色はクールカラーの中でも春らしく、ローズベージュとパステルブルーグリーンというやさしい配色だ。
彼女自身は意識してはいなかったが、以前よりも柔らかい感じの物を着る様になった。

それにローズブラウンのバックを持って、同じ色のややヒール高めのパンプスを履いて、博士に声を掛けてから出掛けていった。



待ち合わせの駅前の広場を見渡すと、噴水の前のベンチに座っている彼が見えた。
すると携帯が鳴った様で、彼はそれを取る。

何となく志保は樹の影に身を隠した。

「どないしたん?」
『そらこっちの台詞や、ホワイトデーやからってどないしたん?あない帯留め、高かったんちゃうん?』

相手は母親の様だ。
バレンタインのお返しにと数日前に送っていた物が届いたらしい。

「平気やって、そない無理してへん」

普段から和装で良い物を着ている母に贈った帯留めは、それに見合う品物だが、人脈故に正価で買った訳ではない。
勿論そんな事は言わないが、確かにそれなりに値は付いた。

『せやかてホワイトデーなんて、もっと手頃な物でええんやで?』
「まぁ…気にせんといて。値段の問題ちゃうけど、オレの勝手な願い込めてもーてん、別におねだりちゃうで?」
『願いて?』

それは当然訊かれるだろう。
平次はポリポリと頭を掻いた。

「────ここだけの話にしといてや?……志保がな、もう家族居ーひんやんか、せやから親父やオカンがアイツの事、ホンマに娘やて思うてくれたらええなぁって、オレが思うてるだけやねん」

鋭い母親に納得して貰う為には本当の事を言うしかない。
少しの間があって、呆れと愛情の篭った言葉が返ってきた。

『……アホ、そないしょーもない気ィ回すん、アンタらしくないわ。アンタを幸せにしてくれる娘なんやろ?親は子供が幸せなんが一番や、たまには二人で顔見せや』
「…おー、時々帰るわ」

嬉しい様な、泣きたい様な、そんな感情で平次は応える。

『ほな、な。春やし、今度野菜でも送ったる』
そう言って切ってしまう静華はいつも通りシャキシャキしていて、平次は照れ臭い笑みを浮かべて携帯を閉じた。

そんな様子を聞いていた志保は、俯いて手を握った。

(………バカね………)

そんな事を心で呟きながら、胸にじんわりと広がる暖かさを遣り過ごす。
そうして表情を整えてから一度深い呼吸をして、今来たかの様に平次の元へと向かった。

「お待たせ」
志保を目に映すと、平次は微笑んだ。
「ほな、まず飯食いに行こか」

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