平志小話集
More Sweet(2)
「どうしたの?」
立ち止まっている平次に志保が訊くと、彼は応えた。
「綺麗やなー思て」
すると志保は頬を染めて、そのままキッチンに入っていく。
「野菜切るの手伝って頂戴」
母親がちゃんと料理をしてくれていた平次は自分ではあまりやらないのだが、時々志保の手伝いをする事で、カット位は出来る様になった。
別に『男子厨房に入らず』なんて主義はないので、ちょっとでも志保を助けられるなら少し位は出来た方が良いと思っている。
カップルで一緒に料理するのも割りと楽しいので、今ではキッチンに常備してある女性向けのエプロンを掛けて、志保は準備を始めた。
その後、平次がセッティングしたテーブルに料理が並び、彼が冷蔵庫からワインを出す。
志保がエプロンを外すと、平次は彼女にラッピングされた箱を差し出した。
「逆チョコや」
にっこりと笑う平次からそれを受け取ると、思わず見つめてしまう。
「開けてみ」
言われて、明らかにバレンタイン用包装のリボンと包装紙を外すと、透明なケースの中に薔薇が一輪咲いていた。
「……これ、チョコ?」
「そやねん、何や紅茶みたいな色の薔薇があるんやて?それがモデルなんやと」
繊細な細工の、まるで生きてるみたいな紅茶の色をした薔薇の花。
「何やそれ見たらおまえに見せたなってな」
「……ありがとう」
そのチョコをじっと見てから彼女はテーブルに飾るみたいに置いて、スパークリングワインを開けてグラスに注ぐ平次に目を移すと、志保はちょっと困った様な表情をした。
けれどそれは一瞬で、二人は食事を始める。
「そや、博士はどないしたん?」
「出掛けるって言ってたわ」
「そぉか、そやったら泊まれるんやろ?」
志保は頬を染めて、小さく応えた。
「……そうね////」
ゆっくりとした食事の後、平次を部屋に移らせて志保は後片付けをした。
チラリとキッチンの隅にある2つの大きな紙袋を見て溜め息をつく。
片付けを終えた彼女がチョコの薔薇を眺めていると、平次がダイニングを覗いた。
そうしてそんな彼女に微笑むと、気配を感じた志保が顔を上げた。
「珈琲淹れよか……紅茶がええ?」
「そうね…紅茶にするわ」
それを受けて平次が湯を沸かし、茶葉をポットに入れた。
すると志保はチョコの薔薇と自分のバックを持って平次の部屋へと移った。
彼がカップとポットを持って部屋に入ると、阿笠邸でも工藤邸でも見る事のないコタツに入って、スマホで何かをチェックしていた。
平次がテーブルに紅茶を置くと、志保はスマホをバックにしまい、ちょっと戸惑ってから、代わりに小さな箱を出した。
隣の面に座る平次にそれをそっと差し出す。
「……タイミング逃しちゃったけど、これ…」
それは可愛くラッピングされた、まさしくバレンタインプレゼント。
平次は目を見開いた。
受け取りはしたものの、固まったみたいにそれを見つめる彼に、志保はちょっと拗ねた表情をした。
「どうしてそんなに驚くのよ?」
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