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平志小話集
Walk hand in hand(6)
平次はそちらに視線を遣ってから答えた。
「あっこら辺は繁華街や。夜の店メインやな」
「…あの辺……休めそう?」

志保の視線を追うと、ホテルが幾つか建っている。
「……ええん?」

訊かれて頬を染めた彼女は、ふいと横を向いた。
別に平次が嫌で拒んだ訳ではないので、ちょっと気に掛かっていたのだ。
「別に……大丈夫なら行かなくて良いけど?」

遠回しに平次の溜まり具合を問うそれに、彼は笑みを浮かべた。

「まぁ、オレはおまえん事は何時でもOKやけどな?」
「バカ////」

それでも平次は確認した。
「……別に、罪悪感とか持たへんでええんやで?」
「そういう訳じゃないわ…」

「そぉか…ほんならあっこじゃなくて、そっちにしよ。あんまり『いかにも』な感じ嫌やろ?」
そう言って、平次は右ではなく左側に向かった。
立地的に結局はお初天神に寄る事にした。


「貴方確か無神論者じゃなかったかしら?」
「さー……そこまではいかへんけどな、信仰がないだけや」
「それでお参りするの?」
「確かに初詣は行く事あるなぁ」
「矛盾してるわね」

くっと笑う志保に、平次は肩を竦める。
「人間、矛盾だらけやで。世の中理解に苦しむ事も溢れとる。けどオレは探偵で、論理的思考重視やけど『勘』が大事な時もある。考え過ぎも毒っちゅーこっちゃ」

過ぎたるは及ばざるが如し。
人間、バランスが重要だ。

「ちゅー訳で、デートとしてのお参りしよーやv」
あっけらかんと笑う平次に、志保もつられて笑った。

そうして複数ある社のうち、恋愛成就の本堂にお参りしてから、絵馬を掛けた。

さて、出ようかという処で、平次が何かに目を止めて眺めているので志保がその視線を追うと、巫女衣装の女性が売店に入る処だった。
この神社は普段から巫女が居る訳ではないので、それは珍しい風景なのだが、地元ではない志保には知る由もない。

「…あーいう感じの娘、好きなの?」
問われて平次は即座に否定した。
「ちゃうねん!巫女衣装をな、おまえが着たら、凛とした感じで似合うやろなーって思てん」

そんな事を言われて僅かに頬を染めるものの、志保は苦笑した。
「似合わないわよ…」

そんな聖なる物は───
口にはせずに心の中でそう呟いた志保ではあったが、何を考えたのか平次は頬を赤らめて、掌で口から鼻を覆った。

「?」

(あかんあかん、こないなトコで血ィ吹いたら敵わんわ;)

「ほな行こか」
ついしてしまった妄想を振り切る様に、平次は不思議そうな志保の手を繋いで神社を出たのだった。



そのホテルのある通りは人通りも気になる程ではなく、造りもシンプルで、尚且つ自然に通れる位置にある。
そんな条件の良さは、やはり土地慣れしている者ならではの選択だろう。

「中に入るんは初めてやけど…悪くないんちゃうか?」
選んだ部屋に入ってそう言う平次に、志保はそれには応えず、淡々と言った。
「…シャワー、浴びさせてね」

彼女は照れを隠すみたいに、そそくさとバスルームに消えてしまった。

平次は追うか待つかをちょっと考えて、パネルの中の小道具を確認したりした。


志保は躰を洗いながら、ほんのりピンクに染まる肢体が鏡に映るのを眺めた。
白い泡に見え隠れする白い裸体は、何やらエロさを感じる。

これからえっちする、という時間は何だか妙に恥ずかしい。
寧ろ突然求められて流される方がまだ恥ずかしくない様な気もする。
が、行為の前に躰を綺麗にしたいと思うのは、女心だろうか。

シャワーを終わらせバスタオルをボディーに巻き付け、脱衣所でドライヤーを使う。
その頃に上半身だけ脱いだ平次が入ってきた。
「入るで」

志保はドキンとするが、彼は別段何かを仕掛けるでもなく、普通に服を脱いで浴室に入っていく。
彼の色黒で精悍な裸体を目にして、志保は頬を染めた。

あの躰が自分を抱くのだと思ったら、躰の中から火照ってくる様な気がする。
髪を整えた志保は、脱衣所を出て冷たいお茶を飲んだ。

冷蔵庫を覗いて中の物を確認する。
(あの人はビールの方が良いかしら…)

入っていたビールは中瓶なので、グラスを見繕い用意だけしておくと、じきに平次がタオルを腰に巻いただけでバスルームから出てきた。

栓を抜いてビールを注いだグラスを平次に渡すと、彼は受け取り、グラスが1つなのに彼女に尋ねた。
「おまえはええの?」
「ええ、お茶飲んだからもういいわ」

それを受けて彼はグラスのビールを飲み干した。
「あー……やっぱ缶より瓶のが旨いわ……缶は手軽やねんけどなー…」
「缶しかない店も多いわよ、今は」
「缶の需要の方が多いっちゅーコトやろ……味は二の次っちゅーのも、何や淋しいな」

「アルミじゃなくてスチールだったら、もっと違うわよ」
志保が科学者の視点で付け足すと、平次は苦笑した。
「そらギョーカイの都合っちゅーヤツなんやろ」
「採算重視って訳ね…アルミを体内に入れた場合の問題も、正式にはなってないから、見ない振りをしてるのかも知れないわね」
志保はそう応えて肩を竦めた。

抱き合う前の時間にこんな硬い話をしてしまうのも、この二人らしいと言えば、らしいかも知れない。
平次は空になったグラスをテーブルに置いて、タオルを躰に巻いただけの色っぽい志保をぎゅっと抱きしめた。

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