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平志小話集
Walk hand in hand(5)
志保が頬を染めると、平次が更に言った。
「オレから…離れんといてな…?」

志保は目を見開いて、頷いたのか俯いたのか視線を下ろすと、平次からの指輪を嵌めた左手を彼に差し出した。

「…私、貴方のプロポーズ、受けたのよ…?」
そう答えてじっと見つめる彼女に、平次は嬉しそうに笑った。

彼女の手を握って、そっと指に口づける。
ぎゅっと抱きしめる平次に、志保は慌ててもがいた。
「ちょっと待って…ここ外なのよっ…////」
すると平次は微笑んだまま応じた。
「中やったらええん?」

志保はちょっと頬を赤らめて、首を横に振った。
「……東京に……帰ったら……」

平次は小さく息を吐いて、志保の髪を撫でた。
取り敢えず今は志保の女心を尊重してやる事にする。
その位、気を回してやれなければ女性とは長く続かない。
平次はまた彼女の手を握り、一緒に実家へと戻った。



気疲れしたのか、ベッドに入ってすんなりと眠ってしまった志保の髪を撫でて愛しそうに見つめた平次は、部屋の電灯を落としてやって、デスクライトで本を一冊読んでから、彼もまた彼女の隣で眠った。


そうして朝を迎え、彼が目を覚ました時には志保は部屋には居なかった。
「…志保?」
取り敢えず着替えて一階に降りると、キッチンから話し声がする。

覗いてみると、志保と母親が話しながら料理をしている。
何やら関西の調味料だの味付けを習っている様子。
平次はとても照れ臭くなってしまってそこを離れ、洗面所で歯磨き、洗顔、髭剃りをして、笑みを浮かべた。

「あら、起きてたん?朝食出来たで」
通りすがりに静華に言われて居間に入ると、共同で作った和食がテーブルに並んでいた。

先に静華が出掛ける平蔵を送り出し、彼の分の食器を台所に持っていった後、3人で食事をした。
その経過のお陰でか、志保は母親に気に入られた様で、昨日の緊張感はなくなっていた。
平次もほっとしたのと嬉しいのとで、楽しそうに箸も進んだのだった。


そうして部屋に戻った途端、志保は平次に抱きしめられた。
「おおきに…v」
その言葉で動きを止めた志保を、そのままベッドに抱き降ろした。

「待って、駄目よ、こんな時間に…;」
「あかん、我慢出来ひん。志保が可愛過ぎんのがアカンねんで」
「訳解んな……ぁん……」

すっかり臨戦態勢で躰をまさぐられ、小さく反応しながらも、何とか平次を押し戻そうとする。
「ダメ……お義母さんに聞かれたら…っ」

その唇を塞がれて、口内を貪られてしまう。

「階下(した)のオカンにまで聞こえへんよ」
しっかりと口づけを堪能してからペロリと唇を舐められて、そんな事を言われた。
「でも……」

夜ではないのだから、何かで呼びにこられたら、バツが悪いなんてものではない。
躰を撫でられ流されそうになりながらも、志保は平次の唇に手を当てた。

「お願……安心して貴方を感じたいから…」

ピタ、と平次の動きが止まった。
そうして苦笑しながら彼は躰を起こした。

「……敵わんなー……」

同じ止めるでも言い方一つで全く展開は変わる。
賢い女性は、事を荒立てずに男を乗せる事が出来るものだ。

「そやったら大阪案内がてら、そろそろ帰ろか…」


そういう理由を持って、母親にいとまを告げ、挨拶をして家を出た。


淀屋橋で京阪を降りて、志保のお泊まり荷物の入ったバッグを平次が持ってやり、中之島の図書館等のクラシックな建物を見せてから、梅田へと向かった。

「観光やったら、キタよりミナミの方がええかなー…取り敢えず有名処でお初天神、行ってみよか?」
お初天神とは、曽根崎心中を由来にした神社である。
そういうものに志保が興味を持てるのか、甚だ疑問に感じるので、一応問い掛ける形を取った。

新御堂筋を歩いていると、道路を挟んだ右手に見える景色にふと、志保が立ち止まった。

「ん?疲れたか?ヒール履いとるもんな…」
駅一つ分の距離だけれど、歩いてきたのでそう訊く平次だったが、志保はその問いには答えずに、逆に尋ねた。

「あっちって……」

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あきゅろす。
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