[携帯モード] [URL送信]

平志小話集
Walk hand in hand(4)
「過保護やねぇ…メロメロなんが解ったわ」

平次は溜め息をついた。
確かに、和葉も平次にとっては大事な人間である。

「…で?何聞きたいねん」
「迷惑やったんはごめんやけど、おっちゃんやオバちゃんも納得したん?」
「勿論や、問題ないやろ」

言いたい事は沢山あったのに。
イザこうしてみると、何も出てこない。
既に勝敗は決してしまったのだ。

「…あの人の何処が好きなん?平次がめっちゃ幸せになれる人?」
「おーvめっちゃ幸せやでーvv」

失恋した和葉にとって、脂下がっただらしない笑顔はかなりシンドイ。
思わず彼女は平次に平手打ちをかました───が、今度は寸でで平次に防御されてしまった。
平次とてそう何度も殴られてはいない。
和葉の振り上げた手を下ろして離すと、彼は真剣な表情に変わった。

「…恋愛って理屈ちゃうやん?オレは志保の全部が好きや。よく二人で一つの丸になるとか言うやんか、アイツとこうなれて、ホンマやなぁって実感したんや…オレにはアイツが必要なんや」

そうまで言われてしまったら、二の句が継げない。
我慢しようと思っていた涙がポロリと零れた。

「……なぁ…平次、アタシがアンタの事好きやて、ちょっとでも気付いてた?」

平次は驚いた顔をして和葉を見た。
多分、初めて見る『女』の和葉を。
ちょっと息を飲んだ平次は、やがて静かに答えた。

「……気付いてへんかった……いや、何となくは感じてたのかも知れへん。けどオレがおまえん事、家族みたいな大事な存在やったから、『恋愛』のスタンスに立って見た事ないねん……ごめんな…」

和葉は俯いてしまった。
そのまま暫く時が止まってしまったかの様に二人は動かない。
それを破ったのも、やはり和葉だった。

勢い良く袖で涙を拭いて、バッと顔を上げる。

「邪魔したわ!そんじゃ、鈍さでフラれん様、頑張りや!」
言うと、彼女は平次の部屋を走り出ていった。
そして平次は溜め息をついて、ベッドに腰掛けた。

それからハッと気付いて、携帯を掴んで通話にする。
「志保?今何処やねん」

答えを聞きながら平次は部屋を出て行く。
「直ぐ行くし、そこに居ってや。ついでに少し案内したる」


そうして志保と落ち合い、寝屋川を少し歩いた。
和葉とどうだったとか、志保は訊かない。
平次も特にそれを自分から話すでもなく、街を案内した。

平次の性格なのか土地柄なのか、時々住民に声を掛けられる。

「平ちゃん久し振りやんか、帰ってきとんの?」
「そやねん、今週末だけやねんけどな」
「えらい美人連れてるやんか、彼女かい?」
「そやねんーv 将来の嫁さんやでー、よろしゅうな♪」

デレッとノロケて紹介する平次に、志保は真っ赤になりながら小さく会釈する。

そんな事が何度かあって、志保は改めて、自分とは世界の違う男なのだと思う。
そんな気持ちが顔に出ていたのか、平次が尋ねた。
「どないしたん?」

「……別に……」
「あかんで、不安やったら全部吐いてまい。これから長い付き合いになんねんで?」

こういう場合、平次は曖昧に見逃してはくれない。
志保は溜め息をついた。

「別に、不安とかじゃないのよ。貴方と私じゃ、本当に全く世界の違う人間なんだなって…思っただけ」

平次は暫く彼女を見つめてから答えた。
「カップルっちゅーんは殆ど、別々に育った人間同士が結ばれていくんやで?違うの当たり前やん」
「……そうね……」

平次は志保の正面に躰を向けて、真剣に見つめた。

「オレは、志保が好きや。今のおまえがおまえの生きてきた証やろ?これから二人で、これからの人生、重ねていきたいねん。志保やから、好きなんやで?」

[*前へ][次へ#]

4/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!