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平志小話集
Walk hand in hand(3)
その日は泊まる事になり、食事と風呂を貰って二人は平次の部屋に落ち着いた。

「せやから大丈夫やて言うたやろ」
そう言って笑うと、平次は志保の髪を撫でた。
そして左手の指輪を目にして続けた。
「婚約指輪……どんなんがええ?今度一緒に見に行こか…」

以前志保の誕生日に平次が贈った、プラチナが編み込まれて小さなローズクォーツが3つ付いた細い指輪。
それを見て志保は答えた。
「……いいわよ、これで。まだ学生でしょ?」

「───これでええの?」
「ええ、ちゃんと貴方の気持ちが籠もってるんでしょ?」

平次は微笑むと、志保をやさしく抱きしめた。
「好きやで……めっちゃ幸せにしたりたい…」
「…………」

志保は平次の背中に回した手に力を込めた。
平次が少しだけ躰を離して唇を触れようとしたその時、無粋にも部屋の扉がバーンと開いた。

「平次っ!」

咄嗟に離れた二人は現れた人物に目を向けると、平次が呆れた様な、やや怒りも含めて言った。
「何やねんおまえは、男の部屋を突然開けんなや」

言われた和葉の方は、驚いた瞳で二人を見つめた。

「平次……その人……」
「あぁ、オレの彼女やで。おまえは知らへんかったな。志保や、将来オレの嫁さんになる」

この時の和葉のショックときたら、まるで上から建物が崩れてきた様な衝撃だった。
志保の方は彼女を知っているので説明を省いたが、何故かを追求する頭の回転は、その時の和葉には止まっていた。
立ち直れないかとも思えたそれから何とか持ち直した彼女は、志保をキッと見つめた。

「今まで…そないな事言わへんかったやん、彼女出来たとか」
平次の性格だったら『工藤』の時みたいに嬉しそうに連呼しそうなものなのに。

「あー……タイミングがなかっただけやろ…別に隠してた訳ちゃうで」

同じ女から見ても、美人で抜群のスタイルである。
だとしたら、性格まで良いのだとしたら出来過ぎだ。

「平次ってえらい面食いやったんや?びっくりするわ」
「アホゥ、志保のええんは顔だけちゃうで」

不意に、志保が平次の足を踏んだ。
「痛いやん、何やねん?」

こういう処は平次は鈍いのだ。
「服部君、和葉さんと少し話するといいわ」
「へ?」
「てか、何でアタシの事知ってんねん」
初対面の筈なのに。

その辺は志保はぬかりがない。
「写真見せてくれたから。幼馴染みだって服部君から聞いてたわ」
「そうなんや……」
和葉は悔しそうな表情をした。

平次と同じ大学に入っていれば良かった(レベルの高い難関ではあったが)
そしたらこんな女を近付けさせなかったのに。
なんて後悔しても後の祭りだ。
意地を張っていた自分にも悔やまれる。

実は、東京の大学に行くのは親にも反対されていたのだ。
彼女の進路は大阪で刑事になる事だったから、平次を追うという理由は親を納得させられるものではない。

そこで志保が続けた。
「少しその辺歩いてみるわね、貴方の育った街を」
「志保!」
「駄目よ、ここを放置しちゃ。ちゃんと話しなさい」

平次は一瞬黙った。
この辺は、新世界や西成程は治安は悪くない。
けれど夜に不案内の街を美女一人で歩かせるのは、ちょっと心配だ。

「……携帯、ワンプッシュでオレに繋がる様にしとき」
「解ったわ」
と言うか、既にそうなっているのだが。

「電波の届かへんトコには行くなや?」
「大丈夫よ、子供じゃないのよ」
志保は苦笑した。

子供じゃないから心配なのだが。
ともあれ、頭の良い彼女にあまり心配し過ぎても失礼になるし、平次は渋々志保を送り出した。

和葉と二人残った部屋で、口を先に開いたのは彼女の方だった。

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