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平志小話集
Walk hand in hand(2)
居間では父親の平蔵がゆったりと新聞を読んでいたのを、人が入ってくるのに合わせてテーブルに畳んで置いた。
改めて志保が挨拶するのに平蔵が頷くと、母親がお茶を人数分淹れた。
それへ平次が土産物を差し出し、自分の彼女を紹介する。

差し障りのない話や質問をされたりしながら会話が進み、そのうちに平次が折りを見て切り出した。

「オレは、将来結婚考えてんねんけどな、志保は心配してんねん」

志保が驚いた様に平次を見ると、彼は真面目な表情で父親に対した。
「親父の立場やったら、通称黒の組織摘発の件、知ってるやんな?志保が昔関与してたんも」
「あぁ」
「けど志保は情状酌量されとる」
「うむ…」

平次はさり気に志保の手を握り、言葉を続けた。
「志保はオレとの結婚で親父の立場が悪なるの心配してんねん。せやからな、もしオレが志保と結婚する事が問題になるんやったら、オレを勘当してや」
「服部君!!」

驚いて窘めるような声を出した志保の手を握る力を少し強めて、平次は彼女に微笑んだ。
平蔵はそんな平次をじっと見つめた。

そこに居るのは、いつの間にやら大人になった、一己の雄であった。
そうして平蔵は、フッと笑った。

「アホか、この娘は起訴されてへん。つまり、罪に問われとらん。何で勘当せなあかんねん」

ニッと平次は笑みを浮かべた。
「ほんなら、志保はオレの婚約者っちゅーこって、認めて貰えんねんな?」
その言葉に平蔵は、志保を見てから応えた。

「しっかりした娘さんやないか…おまえみたいな鉄砲玉をちゃんと窘めてくれそうやしな」
そんな台詞に志保は頬を染め、平次は苦笑した。
「何やねん、ソレ」

「そんで?アンタ、卒業したら大阪帰ってくるんか?」
母親の問いに、平次は首を横に振った。
「…いや、将来は工藤と一緒に探偵事務所開くねんか…戻っては来れへん。けど、ちゃんと時々帰ってくるし」

「工藤君と一緒やないとアカンの?」
平次はどう説明したものか考えた。

「…工藤とやったら最強の仕事が出来る。お互いの欠けたトコ補えるしな。互いが必要やねん」

静華はそんな言い草に驚いて訊いてきた。
「そーいやアンタは前から、好きな女かと思う位、工藤工藤ゆーてたな…そんなんで志保さん大事に出来んの?」
「アホ、それとこれとは別モンや。親父かて遠山のおっちゃんが危なかったら命張るやろが。しかもおんなし大阪府警やし。それと同じやねんで?」

そこで志保が付け足した。
「大丈夫です。この人が工藤君一番なのは、最初から解ってますから……でもちゃんと帰ってきて大事にしてくれるんです」

親達はちょっと驚いて、それから嬉しそうに微笑んだ。

「…平次には出来た嫁さんやねぇ…たいしたもんやわ。平次、女はこの人一人にせな、バチ当たんで」
「解ってるて」
そう返す平次に、志保は少し身も蓋もない事を思った。

仮に、女との浮気は、勿論されたら厭だが怖くはない。
それは、彼の心を本気で持ってかれるとは思えないのだ。
もし破局が訪れるとしたら、それは新一と恋仲に発展してしまった場合にしか有り得ないのだと、平次が聞いたら怒りそうな事を考えて、志保は苦笑した。

尤も、志保とて新一の側は離れられない。
運命共同体として、彼の体調を一生守っていくと決めているのだ。
平次と志保の関係には、工藤新一という男が核になっていて、彼抜きの生き方はない。

最後に、平次が冗談めかして言った。
「どないしても大阪住まわせたかったら、工藤も一緒に来てくれる様、説得せなあかんで?」

きょとんとした母親は、ポコンと平次の頭を殴った。

工藤には大阪に移り住む理由はない。
大きな自宅は有るし、首都で活躍するのに何の問題もないのだから。

「だからっちゅーて、工藤の所為ちゃうで?オレがオレの人生決めてんねんから」
「アホか、そんなん解ってるわ」

静華は呆れたみたいに溜め息をついた。

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