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平志小話集
Walk hand in hand
ゆっくりと寛いだティータイム。
平次は飲み干したカップをコトンとテーブルに戻した。

「今度の土日、スケジュール空いてるか?」
おかわりを淹れようと手を伸ばした志保は、顔を上げた。

「別に、空けようと思えば空けられるけど?」
すると平次は真剣な顔で告げた。
「ほんなら、一緒に大阪行ってや…ウチの親に紹介したいねん」
「────」

志保は思わず俯いてしまう。
暫くして意を決したみたいに顔を上げた。

「……私達……婚約解消しましょう…」

「?! 何でなん?!理由言えや、何が不安なん?」

愛されているのは自惚れではないと思う。
漸く彼女からOKを貰って、親には会わせると言っていたのだ。
それなのに、彼女は辛そうに顔を歪めた。

「私……黒の組織に居たのよ?解ってる?」
「昔の話やん」
関係ないと言いたげな平次に志保は続けた。

「大阪府警本部長の息子の妻に、なれると思うの?」
「結婚すんのは親父ちゃうで」
「でも、貴方のお父さんの立場が悪くなるわ。最悪辞めなきゃならなくなったら……」

唇を噛む志保に、平次は息を1つ吐いて質問を変えた。
「オレと…別れたいん?」

志保は俯いた。
「……違うわ……でも……結婚は……」

志保の手が微かに震えている。
平次は彼女の頬に手を差し伸べて、自分の方に向かせた。

「あんな……仮に結婚までいかへんくても、オレはおまえ以外とする気ないで?ともかく、今付き合うてるゆー事は、ちゃんと紹介させてや?」

「…………」
「ええな?」

戸惑いながらも小さく頷いた志保に、平次はやさしくキスをした。



そんなこんなで週末までの数日、志保は研究が上の空になってしまい、ちっとも落ち着かなかった。
親がそこの科学者だった流れとは言え、組織に居た人間が、何で寄りによって警察のお偉いさんの息子なんて愛してしまったんだろうと思っても、もう遅い。
第一、恋愛は理屈ではないのだ。

平次を失うのは辛過ぎるけれど、こんな自分を彼の両親が受け入れてくれるのか、不安で堪らなかった。
志保は落ち着こうと母親のテープを聞きながら、亡き姉を思った。


そうしていよいよ週末、平次が志保を迎えにきて、二人は新幹線に乗った。
新大阪から御堂筋線で淀屋橋まで行って、京阪に乗り換える路線を取った。
寝屋川市駅に降り立つと、平次は志保の手を握った。
殊更に無口になっている彼女に、やさしい笑みを浮かべて彼は言った。

「ほれ、深呼吸してみぃ」
「え……」
「おまえはこのオレが惚れ抜いた程の女やで?自信持ちや」

その言い草に志保は苦笑した。
「随分なオレ様発言ね」
「工藤程ちゃうけどな」
あっけらかんと応えるのに、志保は吹き出した。
新一がそんな面を見せるのは、心を許した相手にだけなのだが。
「工藤君に蹴られても知らないわよ」

平次はニヤリと笑って、志保の手を繋いだまま歩き出した。
志保は少しだけ気持ちが軽くなって、繋がれた手に力を込めた。

駅前から離れると、住宅地に入っていった。
洋風な家と日本家屋が混在して密集して、まるでパズルの様にスペースを埋めている。
その中に大きな日本家屋があり、二人はそこで足を止めた。


「ただいま」
挨拶をして玄関に入ると、母親の静華が出てきた。
「お帰り」

志保がペコリと頭を下げた。
「初めまして、宮野志保です」
「どうぞ、お上がりや」

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あきゅろす。
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